業務形態の種類と働きやすさを実現するリモートワークのススメ
会社をより安定させ、さらに成長させていくためには、優秀な人材の確保が不可欠です。しかし、特に地方では、人材不足が深刻な問題になっています。そのような場合には、業務形態を見直すことが、人材確保のために役立つかもしれません。現在では、インターネットの普及や家庭環境の変化、社会のニーズの変化にあわせてさまざまな働き方があり、労働者が自分で働き方を選べるようになってきました。優秀な人材を確保するためには、企業側が労働者のニーズに応え、働きやすい環境を提供することが必要です。それでは、具体的にはどのように業務形態を見直せばよいのでしょうか。ここでは、それぞれの業務形態のメリットやデメリットとともに、より働きやすい環境を実現する方法を説明します。
「業務形態」は雇用形態のことを表しているケースが多い
「業務形態」とは、「雇用形態」をさして使われることの多い言葉です。それでは、そもそも雇用形態とは何でしょうか。働いて給与をもらっている人はみな「労働者」ですが、雇用形態によって処遇や待遇が異なります。
「正社員(正規社員)」は、無期限雇用で、働く期間に関する定めがありません。勤務先の企業と直接雇用契約を結び給与をもらう「直接雇用」で、唯一の「正規雇用」です。また多くの場合、所定労働時間はフルタイムでしょう。
「契約社員」や「嘱託社員」は、勤務先の企業と直接雇用契約を結び給与をもらう「直接雇用」ですが、働く期間に関してあらかじめ定めがある「非正規雇用」です。フルタイムで正社員に準じた働き方をしている人が多いでしょう。多くの場合、定年退職後に再雇用された労働者のことを嘱託社員と呼びます。
「パートタイマー」も、勤務先の企業と直接雇用契約を結び給与をもらう「直接雇用」ですが、「非正規雇用」です。一般的には、働く時間が正社員よりも短く、扶養範囲内での勤務を希望する主婦などが多いでしょう。
「アルバイト」も、勤務先の企業と直接雇用契約を結び給与をもらう「直接雇用」ですが、「非正規雇用」です。アルバイトの場合は、仕事をする曜日や時間がその都度決まります。休みや授業などの関係で働く時間帯が不規則になる学生などが多いでしょう。法的には、パートタイマーやアルバイトなどの短時間勤務者には、「パートタイム労働法」が適用されます。
「派遣社員」は、派遣会社と雇用契約を結び、派遣会社から派遣されて働く「間接雇用」です。給与や勤務時間、労働条件は、派遣会社によって異なります。派遣社員という同じ雇用形態で、同じ企業で同じ業務を行っていても、派遣会社によって給与や労働条件が違うでしょう。派遣社員には、「労働者派遣法」という法律が適用されます。
それぞれの業務形態にはメリットとデメリットの両方がある
同じ企業で働く人でも、業務形態によって条件や待遇が異なり、それぞれメリットやデメリットがあります。働く目的や状況は一人ひとり異なるため、メリットやデメリットに対する見方は、人によって変わるでしょう。
正規雇用の正社員には雇用期間の定めがないため、雇用が安定しており、昇給や昇格が見込めます。賞与や退職金などがもらえたり、福利厚生や研修が充実していたりするのもメリットでしょう。責任ある仕事を任される一方、残業や転勤、業務変更の可能性があります。直接業務に関係のない企業としての活動をする必要があったり、副業ができない場合があったりするのはデメリットかもしれません。
非正規雇用のメリットは、勤務時間の融通がきくことです。短時間の勤務が可能で、転勤がなく、副業もできるでしょう。しかし、契約更新が確約されていないため、雇用は不安定です。一般的に給料は時給制で、休日が多い月は給与が減ったり、受けられる福利厚生や昇給昇格に関して正社員と差があったり、そもそも対象となっていなかったりします。
働きやすい業務形態を実現する「リモートワーク」とは?
勤務形態の1つとして「リモートワーク」を導入すると、社員の働きやすさを実現できる可能性があります。リモートワークとは「遠隔で働くこと」つまり、労働者が電話やメールで企業とコミュニケーションをとったり、PCなどの端末と通信網を利用して企業のシステムにアクセスしたりしながら、自宅など会社以外の場所で働くことです。
リモートワークには、4つの種類があります。「ハイブリッド・リモートワーク」は、企業に正規雇用された社員が、週のうち数日は会社で働き、残りの日は自宅などで業務を行う形態です。「フルタイム・リモートワーク」では、企業に正規雇用された社員が、常に会社以外の場所で働きます。非正規雇用者が会社以外の場所で働く場合は、「リモート・アウトソース(外部委託)」です。「テンポラリー・リモートワーク」は、企業に正規雇用された社員が、限られた業務のみ、会社以外で業務を行います。
「在宅勤務」の場合は仕事をする場所が自宅に限定されていますが、リモートワークの場合の勤務場所は自宅に限定されません。モバイル機器などを使って、移動中やカフェなどで業務をする「モバイルワーク」や、「サテライトオフィス」や「スポットオフィス」などの施設で業務を行う場合もあります。「テレワーク」は、正社員だけでなく個人事業主も対象です。契約形態や勤務場所はさまざまですが、どれも「ICT(情報通信技術)」を利用した勤務形態であるという点は共通しています。
リモートワーク導入の利点1:優秀な人材を確保しやすい
リモートワークを導入する利点の1つは、優秀な人材を確保しやすいことです。例えば、優秀な人材が、家庭環境や住居の変化などにより今まで通り勤務できなくなる場合があります。リモートワークが可能であれば、居住地や勤務時間の問題による離職を減らし、人手不足を解消できるでしょう。介護や子育てなど、会社で業務を行える時間が限られているために非正規雇用を希望していた人でも、リモートワークなら正社員として働きやすいかもしれません。育児休業や介護休業中の社員の中には、オフィスでのフルタイムの仕事には不安が残る場合でも、リモートワーカーとしてなら早く復帰できる場合もあるでしょう。
また、会社での勤務が必須であれば、会社に通える範囲内という限られたエリアで人材を確保する必要があります。しかし、リモートワークなら居住地に限らず雇用できる可能性があるため、高い能力をもったスペシャリストを広範囲に募集・採用しやすいでしょう。地方には少ない、経験豊富なマネージャーやリーダーも雇用しやすくなります。さらに、在宅勤務可能という条件を提示することで、転職を考えている人の転職意欲をさらに加速させることができるかもしれません。魅力ある求人として、エントリーが増える可能性があります。身体的・精神的な障害があり通勤や会社での勤務に支障がある人の場合でも、自宅で業務が行えるのであれば、就職できる可能性が高まります。
リモートワーク導入の利点2:コストを大幅に削減できる
リモートワークを導入すれば、コストを大幅に削減できます。机やイス、家具など、通常オフィスに必要な備品の数が削減できるからです。オフィスで働く人が少なければ、大きなオフィスも必要ありません。家賃や土地代にかかわる経費も削減できます。空調や照明などにかかる光熱費などの固定費も少なくなるでしょう。出勤する必要がないのであれば、社員の通勤のために支払う交通費なども削減されます。リモートワークによって働きやすい環境が浸透すれば、社員が定着し、頻繁に新たな人材を探すための採用コストも削減されるでしょう。
リモートワーク導入の利点3:業務を効率的に進められる
リモートワークの導入により、業務をより効率的に進められるようになります。オフィスで働いている場合のようにイレギュラーな打ち合わせや会議に呼ばれることがなく、スケジュール管理がしやすいからです。その結果、予期しない残業も発生しにくいでしょう。また、リモートワークを導入すると、社員は外乱のない環境で担当している仕事に集中できるようになります。同僚との世間話や、業務に直接関係のない事柄を共有するための打ち合わせなどに時間を浪費することなどもなくなります。
さらに、満員電車に長時間乗って通勤する必要がなくなれば、ストレスが軽減されるでしょう。通勤時間に使っていた時間や、接待や付き合いに使っていた時間をなくすことで自由な時間が増えれば、しっかり体を休めたり、自分や家族のためにより多くの時間を使ったりできるようになります。心身の健康の向上は、結果的に仕事にも良い影響を及ぼすはずです。
リモートワーク導入の利点4:企業のイメージが向上する
リモートワークを導入すると企業のイメージが向上するというメリットもあります。リモートワークの導入により、「先進的な企業」や「社員を大切にする企業」といったイメージを与えられるでしょう。企業のイメージが向上すれば、日ごろの営業活動にもプラスになります。リモートワークは求職者にとっても利点が多いため、採用への応募も増える可能性があります。
リモートワークを導入するならどのような準備が必要か
リモートワークを導入するなら、準備が欠かせません。例えば、社員が会社の外でスムーズに業務を進めるには、どこにいてもオンラインで社内情報を見られるように、情報をデジタル化しておく必要があります。このことは、リモートワークの導入にかかわらず、社内のデータ管理を見直す良い機会にもなるでしょう。情報をデジタル化したら、ペーパーレス化を進めることも大切です。リモートワークの社員とは、インターネットを使って情報をやり取りします。会議の場合でも、紙での資料配布はできません。郵送などを利用すると、手間もコストもかかります。申請書なども電子化し、インターネット上で手続きが完結できるようにするとよいでしょう。
リモートワークでは、会社外で業務が行われ、インターネットを介して重要な情報などが送受信されるため、セキュリティ対策も万全にしておくことが必要です。情報の暗号化や遠隔ロックを使用したり、端末へのデータ保存ができないシステムを使ったりして情報の漏えいを防ぐ仕組みが必要です。セキュリティ対策を施したパソコン貸与したり、前もって機密ファイルなどの取り扱いに関する指導をしたりするのも良い方法です。情報漏えいなどのトラブルの多くは、働いている場所よりも管理方法に問題がある場合が多くなっています。会社全体として、情報管理の仕方を見直す良い機会にもなるでしょう。
管理者はリモートワークの社員が働く様子を直接確認できません。そのため、リモートワーカーの勤務内容や勤務時間などに関して正しい評価をするためには、人事制度の見直しや新たなツールの導入が必要になるでしょう。インターネットを介して出勤退勤管理を行ったり、成果報酬型を採用したり、リモートワークを考慮に入れてシステムの構築や社内体制を整備することが大切です。オフィスの勤務時間帯にリモートワーカーと連絡がつかず、タイムラグが損失につながることがないように、緊急時の連絡方法などについても明確にしておきましょう。通信費用や情報通信機器にかかわる費用負担、労働災害の補償や勤務時間管理に関することなど、リモートワークに対応した就業規則などの策定もする必要があります。
リモートワークに適応するインナーコミュニーション戦略も大切です。さまざまな場所にいる複数人でのミーティングが可能な、テレビ会議やビデオチャットサービスを利用することで、異なる場所で働くことによるコミュニケーション不足を補うことができます。社内SNSを作って、オフィス勤務の社員もリモートワークの社員も自由に加われるコミュニケーションの場を作ったり、業務の流れが誰でもすぐにわかるようにグループウェアを活用したりするのもよいでしょう。リモートワークに対応したさまざまなツールを活用して、従業員が1つのシステムでつながることにより、距離は離れていても連帯感が強まる効果もあります。Slack(スラック)やChatWork(チャットワーク)、GoogleドライブやZoom(ズーム)などのコミュニケーションツールについて調べておくとよいでしょう。
まとめ
リモートワークを導入することは、社員にとって働きやすい環境を提供できるだけでなく、企業にとってもさまざまなメリットがあります。地方には少ない優秀な人材を確保したり、オフィスにかかるコストを大幅に削減したりできるでしょう。社員の仕事能率が上がったり、企業のイメージが向上したりするのも利点です。優秀な人材を確保するために業務形態の見直しを考えているなら、リモートワークを導入してみるのはいかがでしょうか。リモートワークを導入する場合には、社内情報のデジタル化やペーパーレス化を進め、リモートワークに対応したシステムの構築が必要です。セキュリティ対策やコミュニケーション戦略なども考慮に入れて、仕事をスムーズに進めるための環境を前もってしっかり整えましょう。