中小企業が抱える人材不足の課題は在宅勤務で解消できるのか?
多くの中小企業にとって人材不足は深刻な問題とされています。採用することができても、育児や介護などの事情から退職してしまうケースもあるのです。少子化が進んでおり、求人を出しても新入社員がなかなか集まらないこともあります。こういった人材不足の問題を解決するためには、できるだけ有能な人材を増やすことが理想的です。そうすれば、会社の業績が上がり、今後も成長を続けていくための基盤をつくれます。そのために有効な方法として在宅勤務が注目されているのです。実際に在宅勤務というスタイルの働き方を取り入れて、成功している企業もあります。そこで、在宅勤務によって人材不足の課題を本当に解消することができるのか解説します。
在宅勤務が可能な業種にはどのようなものがあるのか?
すべての業種において在宅勤務が可能なわけではなく、在宅勤務との相性の良い仕事があるのです。たとえば、デザインや設計業務といった仕事は、個人で作業をするものであり、必要なデータはネットを介して受け取ることができるため、在宅勤務に向いています。ライティングや編集作業といった仕事も、オフィスでなければできない仕事ではなく、在宅勤務との相性が良いでしょう。マーケティングやセールスも電話やインターネットで行える仕事が増えており、在宅での仕事が可能なケースがあります。データ入力も、インターネットを用いて自宅で作業ができる環境を整えることは可能です。見積書の作成やプレゼン資料、企画書の作成などの事務仕事も、自宅で進めたとしても特に問題はありません。
顧客と打ち合わせをするのも、サテライトオフィスやモバイルオフィスを活用してできるケースがあります。基本的に在宅可能な仕事は、会社とのコミュニケーションや仕事のデータ送信などをオンラインで行うことが前提となっているものが多くなっています。しかし、作業そのものはオフラインの環境でも可能なものがあります。たとえば、執筆やセールス、デザインなどの仕事は、オフラインでも可能です。したがって、在宅で仕事ができない業種は、それほど多くはありません。たとえば、配達や接客など現場にいないと成立しない業務は、在宅で仕事をすることが難しいといえます。
在宅勤務が必要なケースにはどのようなものがあるのか
在宅勤務を導入している企業にはさまざまなケースがあり、必要な場合には従業員が自宅で仕事をすることを認めています。たとえば、従業員が結婚や出産などによって、在宅勤務導入以前では離職を余儀なくされるケースです。優秀な従業員であれば、離職されると損失が大きいため、自宅で働くことを認めて会社に引き留めます。会社にとって、優秀な人材を雇うにはコストがかかり、また、貴重な財産でもあり、大切な従業員に辞められては大きな損失となってしまうでしょう。また、配偶者の異動によって、通勤することが難しい遠い地域に引っ越しを余儀なくされるケースがあります。この場合も、自宅で仕事をすることを認めれば、離職を防ぐことができるのです。
家族の介護などの事情から離職を余儀なくされるケースもあります。この場合、在宅勤務ができれば、介護の合間に仕事をすることができるのです。また、不慮の事故などにより、身体に障害が残ってしまったため、通勤だけが難しくなるケースがあります。普通に仕事をする能力があるのに、通勤のみが難しいのであれば、在宅勤務を認めることで問題を解決できるのです。本人は離職したいと思っていないけれども、通勤に問題があって離職せざるを得ないケースがあります。こうした場合も、在宅勤務では通勤をする必要がなくなるため、通勤の問題が解決されて、従業員は安心して自宅で仕事ができるのです。自宅で仕事をすることが認められれば離職せずに済むケースはたくさんあります。
能力を持っていながら事情を抱えて就職を果たせない人とは?
現在会社で働いている従業員の離職を、在宅勤務によって回避させることは可能となる場合があります。しかし、他の理由で退職者が出たり、事業を拡大する場合などには新しい人材を増やすことが必要となります。そこで、能力を持っていながらさまざまな事情を抱えているために就職を果たせない人を採用できれば、優秀な人材を雇えるチャンスが拡大されるのです。たとえば、女性の場合は結婚や育児などの事情で退職をしたけれども、能力や意欲はあり、また働きたいと考えている人が多くいます。しかし、こうした場合は子供が幼稚園や保育園などに入ったとしても、急病など突発的な事情が発生する可能性があり、そのせいで欠勤や遅刻、早退を余儀なくされるケースが多くなります。こういった事情から、働くことを諦めてしまう女性が多いのです。
また、30代後半から40代の人は就職氷河期世代であり、1997年頃から日本では就職率の悪化が目立っており、高学歴であっても正規雇用されなかったケースがあるのです。労働力不足に悩んでいる会社が、こうした育児や介護などをしている女性や就職氷河期世代を上手く活用することができれば、会社の成長にとってプラスとなるでしょう。優秀な人材が日本にはたくさん眠っており、そうした人材を掘り起こして活用することは、労働力不足の有効な対策となります。
在宅勤務で眠っている優秀な人材の掘り起こしは可能か?
2004年に内閣府が実施した「青少年の社会的自立に関する意識調査」によると、約4割が民間企業の正社員として働きたいと回答しています。2004年当時に非正規雇用として働いていた人の多くは就職氷河期世代であり、やむを得ずに非正規雇用を選択していたのです。そのため、正規雇用での経験を望むことはできませんが、在宅勤務を上手く導入することで人材として確保できる可能性があります。在宅勤務でも正規雇用として働きたいと考えている人が多くいることが見込めるのです。オフィスで働いた経験がなく不安を感じている人も、在宅勤務ならば安心して働くことができます。優秀な人材が氷河期世代のなかにはたくさんいるため、日本全国から在宅勤務で掘り起こせる可能性があるのです。
また、結婚や育児などで通勤が難しい女性に関しても、在宅勤務で人材として取り込みやすいでしょう。在宅勤務であれば通勤の問題を解決できます。通勤の手間をかけずに自宅で仕事ができれば、合間に家事や育児などをこなすことができるのです。家庭と仕事を両立しやすくなり、ワークライフバランスも向上できます。通勤の問題さえ解決できるならば働きたいと考えている女性を上手く取り込めるでしょう。
在宅勤務は業務やケースに応じて自由に選択することが可能
在宅勤務については、導入の方法や規定などが一般的なルールとして決められているわけではありません。そのため、それぞれの会社で業務やケースに合わせた形で導入することになります。会社ごとに事情が異なっており、適切な在宅勤務のあり方は違うのです。たとえば、実際に在宅勤務を導入している会社のなかには、週1~2日、月に5日までなど頻度に違いがあります。通勤することができない場合には、完全在宅勤務を認めるというケースもあるのです。
たとえば、完全在宅勤務をさせる場合には、定期的な研修の際には本社出勤を義務づけるというルールを決めることができます。あるいは、会議にテレビ電話を導入して、在宅勤務者も参加できるようにする工夫も考えられるのです。具体的な在宅勤務の内容については、それぞれの会社ごとにルールを自由に決めることができます。ただし、在宅勤務であっても労働基準法は適用される点には注意しましょう。労働基準法の範囲内であれば、各企業や従業員の都合に合わせてルールを定めたとしても構わないのです。そのため、他社にはない独自の在宅勤務のルールを実現している会社もあります。
シニア層の場合は在宅勤務で取り込むことは可能なのか?
少子高齢化で若者から労働力を確保することが難しくなっており、シニア層に注目する会社は増えています。シニア層には対象年齢について明確な定義があるわけではありません。たとえば、公的年金受給開始時期より上の人をシニア層とすることはよくあります。平成25年~37年度にかけて、公的年金の受給開始は65歳へと引き上げられており、65歳を区切りとするケースが多いのです。ただし、老人福祉保険法を基準とするならば、70歳以上が対象となっています。国民生活基礎調査においては、高齢世帯を65歳以上としています。道路交通法においては、70歳がひとつの基準とされています。このように60歳以上をシニア層とみなすケースは多いのですが、実際にはそれぞれの制度ごとに高齢者の年齢の基準は違っています。
また、シニア層を在宅勤務で取り込む場合には、パソコンなどのデバイスを使って、インターネットを介して仕事をさせることにハードルがあります。一般的にシニア層はパソコンなどのデバイスの操作に不慣れであり、自在に操作できる人材は若い層よりも限られてしまうのです。個人差や業務内容にもよるのですが、基本的に在宅勤務の適用をシニア層に求めるのは若い層より難しいといえるでしょう。
現時点での従業員を対象に在宅勤務を導入するメリットと注意点
現時点での従業員に対して在宅勤務を導入することには、さまざまなメリットがあります。まず、遠隔地への引っ越しなどにより通勤に支障が出るために離職するケースを回避できるでしょう。また、家族の介護などにより自宅にいなければいけない人の離職を防ぐこともできます。災害時だと通勤が困難になるケースがあるのですが、その間も業務の継続が可能となるメリットもあるでしょう。業務がストップしてしまうと会社の経営に大きな影響を与えてしまいます。在宅勤務を導入していれば、自宅で仕事ができる社員に業務を継続してもらい、災害の影響を小さくできる可能性が高まります。
ただし、在宅勤務はさまざまな注意点を意識して導入しないと失敗することがあります。まず、在宅勤務に関する労働規定などを策定して、書面にしなければいけません。ルールを明確にしておかないとトラブルが発生することがあるのです。また、労働規定の策定の際には、労働基準法を遵守することが求められます。労働時間や休日なども労働基準法にもとづいたものにする必要があります。始業や就業時の確認方法を決めておき、緊急事態の連絡方法なども明確にしておきましょう。その他、必要に応じて取り決めをしておき、その内容は書面にしておくことが望まれます。また、労働条件に関する取り決めは労働基準監督署に届け出をする義務があります。
また、部分的に在宅勤務を導入する場合は、在宅勤務者とオフィス勤務者で待遇に差が出ないように注意しましょう。一方の待遇のほうが恵まれていると、不満を抱える社員が出てきてしまいます。在宅勤務の導入によって、不公平感が出ることを避けるための配慮が必要です。どの社員に在宅勤務を適用させるのか、厳密に条件を決めておくことも求められます。たとえば、上司の個人的な判断で在宅勤務を認めるかどうか決まるようなケースは避けるべきです。
全面的な在宅勤務で新たな人材を雇用するメリットと注意点
全面的に在宅勤務を導入する場合には、新たな人材を雇用できるメリットがあります。通勤がネックとなって就職を諦めている優秀な人材にアピールできるため、優れた労働力の確保を期待できるのです。ただし、通勤が困難であっても、働いてもらうからには意思疎通が難しくなるのは問題となります。そこで、最低でも面接は本社で実施して、実際に顔を合わせて人柄をチェックすることが大切です。採用したあとも、定期的にコミュニケーションの機会を用意しましょう。たとえば、研修を本社で実施する、ビデオ通話で会議するといった方法でコミュニケーションをとり、連帯感を維持することが重要です。
また、在宅勤務の従業員を迎えるには、在宅勤務に関する労働規定などの作成が必要となり、労働基準法を遵守することが必要となります。労働条件に関する取り決めをしたならば、必要なものは労働基準監督署に届け出をすることが大切です。始業や終業の時間を確認する方法や緊急時の連絡方法なども決めておくことが求められます。始業時間や就業時間の確認は、労働時間を把握するために必要であり、会社には労働時間を管理する責任があるのです。たとえば、在宅勤務で労働基準法に違反する超過労働をさせてはいけません。また、在宅勤務であっても、残業代や休日出勤の手当などは発生します。オフィスにいない従業員の労働管理は難しいのですが、さまざまなツールを用い、ルールを細かに決めておくことで解決できるでしょう。
まとめ
在宅勤務は勤務地が自宅である点以外はオフィス勤務と変わりません。労働基準法が適用され、法律にしたがって導入することが求められます。労働基準法を遵守する範囲内で、業務内容や従業員の要望に沿った形で在宅勤務に関する規定を作っていくことが必要です。全面的に在宅勤務にするケースもあれば、部分的に導入する会社もあります。必要な人材が離職するのを回避でき、新たな人材の発掘を狙えるのが在宅勤務のメリットです。在宅勤務のための具体的な方法が気になるならば、こちらに資料を請求してみましょう。