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在宅勤務を導入する際に企業が押さえておきたい注意点とは?

在宅勤務とはその名の通り自分の家で勤務することです。オフィスの場所や出勤時間、退勤時間にこだわらず働けることから、働き方の選択肢の一つとして注目を集めています。2012年に政府は「2015年までに在宅型テレワーカーを700万人とする」という目標を掲げていました。2012年に国土交通省から発表された「平成23年度テレワーク人口実態調査」によると、在宅型テレワーカー数はおよそ490万人と推計されています。在宅勤務は会社に通わなくても業務が成り立つため、通勤ラッシュに巻き込まれたり、通勤時間や移動時間を浪費したりするリスクがありません。しかし、従業員が自分で仕事の進行を管理するなど、さまざまな点において通常の勤務とは異なります。そこで、企業が在宅勤務を導入する場合、どのような点に注意するべきかを解説します。

厚生労働省が掲げる在宅勤務の定義とは何かを押さえておこう

在宅勤務の場合、通勤する必要はないものの、企業と雇用契約を交わしている以上は労働基準法が適用されます。無自覚に労働基準法に違反していたということがないよう、在宅勤務を導入する際は、厚生労働省が掲げる在宅勤務の定義を十分に理解しておかなければいけません。まず、同じ在宅勤務でも、サラリーマンとして働きながら余暇を活かして仕事を請け負っている副業ワーカーもいれば、フリーランスのように事業主として働いている人もいます。事業主に依頼する場合は外注であり、非雇用と定義されるのです。

また、テレワークの就業形態には雇用型と非雇用型の2種類があります。自宅で仕事をしており、かつ雇用型であれば在宅勤務です。非雇用であれば、企業や個人と業務委託契約を結ぶ形になるため、在宅就業に当てはまります。自宅以外が仕事場所で、かつ雇用型ならモバイル勤務やサテライト勤務という分類です。非雇用型はSOHO、すなわちインターネットや情報機器端末を利用して小規模な事務所やシェアオフィスなどで仕事する業務形態にあたります。

なお、在宅勤務には就業頻度による区分も存在するため、就業形態による区分とともに覚えておきましょう。就業頻度による区分は、常時型在宅勤務と随時型在宅勤務の2種類です。常時型在宅勤務とは、ほとんどの労働日を在宅勤務にあてており、その状態が比較的長期間に渡る場合を指します。一方、随時型在宅勤は1週間に数回は出勤したり、午前中は出勤したりなど、部分的に在宅勤務を行う形態です。

サテライトオフィス勤務とモバイル勤務はどんな形態か?

在宅勤務と同じように、会社とは違う場所で働く方法として、サテライトオフィス勤務やモバイル勤務などが挙げられます。サテライトオフィスとは企業の本社から離れた場所に置かれる事務所のことです。本社を取り巻く衛星のように分散して存在することからサテライトという名がつきました。サテライトオフィスはもともと大都市圏内に本社を持つ企業が、郊外に住む労働者のために設置した事務所から発展したものです。主に本社との通信などを目的としているため、最低限の設備しか必要とされないことから、支店や営業所よりも小規模なケースが多くなっています。サテライトオフィスが設置される場所は郊外や地方に限らず、都心にも置かれる場合があります。通勤時間を短縮できるうえ、地域密着型の事業活動を行えるのが特徴です。

モバイル勤務とは、自宅や出張先などオフィス以外で業務を進める方法を指します。ノートパソコンやスマートフォン、タブレットなど持ち運べる情報機器端末を使用することから名づけられました。通信環境が整っていれば、オフィスに行かなくても働けるのが特徴です。ただし、常に本社とやりとりをする必要があるため、インターネット環境やセキュリティ対策には常に気を配っておかなければいけません。

在宅勤務で可能な作業内容にはどのようなものがあるか?

仕事の内容は業種や職種によって多種多様です。その中には在宅勤務に向いている仕事もあれば、向いていない仕事もあるでしょう。たとえば、顧客を直接接客する業種の場合、在宅勤務の導入は難しいでしょう。しかし、最初から「うちは在宅勤務に向かない」と決めつけるのではなく、仕事の内容を洗い出しながら働き方の選択肢を増やすことが重要です。顧客対応のような対面業務の中でも、仕事の内容をよく分析すれば、書類作成など在宅勤務でも対応できる作業が含まれていることが分かります。企画書や見積書、資料などの作成や、書類を作るための情報収集などは、在宅でできる代表的な作業です。

専門的な知識や技術があれば、デザインや設計、ソフトの開発、プログラミングといった作業もできます。データ入力や執筆作業、編集業務も、情報通信端末やインターネット環境などの設備が整っていれば可能です。電話やメール、テレビ会議などを活用すれば、自宅にいながら打ち合わせや営業活動ができます。顧客満足度や業務効率の維持・向上を図るためにも、対面以外にも顧客対応ができる方法を検討してみましょう。

在宅勤務導入の注意点1:労働時間と休日は適切かどうか

在宅勤務を導入するにあたって気を付けなければいけないのが、労働時間や休日の管理です。労働基準法35条により、雇用者は労働者に原則として週1日以上の休日を与えるよう定められています。また、労働基準法32条では、1日あたりの労働時間が8時間を超えてはいけない旨と、1週間の労働時間が40時間を超えてはいけない旨が記載されているのです。例外を設けることも可能ですが、書面を作成したうえで労働基準監督署まで届け出なければいけません。さらに、例外を適用する際は、割増賃金を支払う必要があります。

なお、休憩時間についても労働基準法34条に記載があるので、忘れずに確認しておきましょう。休憩時間も雇用主が自由に決められるわけではありません。労働時間が6時間を超えるときは、業務の合間に45分以上の休憩時間を与えるよう決められています。労働時間が8時間を超える場合は、60分以上の休憩時間を設ける決まりです。労働時間や休憩時間に関する法律は、在宅勤務の場合も同じように適用されるので注意しましょう。

在宅勤務導入の注意点2:労働時間の定義を間違えない

労働基準法で定められている労働時間とは、労働者が雇用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。明確に指示した場合はもちろん、労働者が自発的に業務を行った場合も労働時間に含まれるので気をつけましょう。たとえ事前に雇用者の許可を得ず、労働者が自らの判断で残業をした場合でも、「自発的なものだから労働にはあたらない」と判断してはいけません。

また、労働基準法上の休憩時間とは、労働者の権利として、労働から離れることを保証されている時間のことです。つまり、実際に作業をしていなくても、作業するために必要な指示やデータを待つ時間は、労働から離れているわけでないため労働時間に含まれます。在宅勤務だからといって、指示がない時間は休憩しているだろうと勝手に決めつけないよう注意しましょう。

在宅勤務導入の注意点3:在宅の場合のみなし労働時間

労働時間や休憩時間に関する規制や、労働時間に該当するか否かの基準は、労働基準法で定められている通りです。しかし、例外として「みなし労働時間制」という働き方があります。みなし労働時間制とは、実際の労働時間を算定するのではなく、一定時間労働したものとみなしたうえで賃金や手当などを管理する制度です。みなし労働時間を当てはめるのは1日単位であることが決められており、月単位や年単位で労働時間をみなすことはできません。企業によっては、1日あたりのみなし労働時間が9時間以上など、法定労働時間を超えるケースもあるでしょう。そのような場合は労働基準法第36条にもとづき、労働基準監督署へ届け出る必要があります。

なお、労働時間の全てを在宅勤務にあてたときと、労働時間の一部を在宅勤務としたときでは、みなし労働時間の当てはめ方が異なるので注意しましょう。労働時間の全てが在宅勤務の場合は、所定労働時間、勤務をしたとみなします。ただし、作業を行う為に必要な時間が、企業の所定労働時間を超えている場合は例外です。その場合はみなし労働時間ではなく、本来必要とする時間だけ労働したとみなします。一方、労働時間のうちの一部を会社で勤務し、残りを在宅勤務にあてた場合は、両方の労働時間を合算したうえで所定労働時間だけ労働したとみなします。例外として、合算した労働時間が所定労働時間を超える場合、両方を合わせた時間を労働時間としてみなさなければいけません。

在宅勤務導入の注意点4:休日や休憩は個別のものと考える

在宅勤務を導入する際は、労働時間だけではなく休憩時間や休日も適切に管理しなければいけません。「自宅で作業をしているのだから、適当に休憩をとっているだろう」と勝手な判断をしないよう注意しましょう。労働から離脱しやすい環境で働くことと、労働から離れる権利を保障することは全く異なります。見なし労働時間制を適用することで、休憩や休日も付与しているとみなしてしまうのは、雇用者が陥りがちな勘違いです。心身の疲労を回復するためにも、雇用者は労働者へ実際に休憩や休日を与える義務があります。労働基準法で定められている内容を正しく把握したうえで、労働時間に合わせた休憩や休日を与えましょう。

なお、在宅勤務を行う労働者の中には、深夜に作業をする人もいます。休憩をとるタイミングも、ある程度は労働者の裁量に委ねることになるでしょう。労働基準法第37条によると、午後10時から翌日の午前5時にかけて労働させた場合、雇用者は割増賃金の支払う義務が発生します。みなし労働時間制を適用している場合も、深夜業を行っている労働者には、深夜割増賃金を支払わなければなりません。人件費をはじめとしたコストや労働状況を把握するためにも、休憩時間や深夜労働については、雇用者から適切な指導を入れましょう。

在宅勤務導入の注意点5:勤務中の健康管理や労災保険の扱い

雇用者は在宅勤務者に対して、適切な休日や休暇を与えるだけではなく、健康管理も行わなければいけません。労働安全衛生法第66条第1項により、雇用者は在宅勤務者に対し必要な健康診断を行うよう決められています。さらに、労働安全衛生法第59条第1項により、雇用者は在宅勤務者に適切な安全衛生教育を行わなければいけません。労働衛生管理の具体的な方法は、厚生労働省から発行されている「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」に記されています。ガイドラインに記載されている内容を在宅勤務者に周知するとともに、雇用者も必要な助言ができるよう、内容を把握しておきましょう。

さらに、在宅勤務中に災害が生じた場合、業務内容が原因であれば労災が適用されます。自宅で起きた事故だからといって詳細を把握せず、勝手な判断で対応を怠ることがないよう注意しましょう。なお、業務時間中であっても、自宅での私的行為が原因で起きた災害は、業務上の災害とはみなされません。

在宅勤務導入の注意点6:評価や対応は常に適切に行う

在宅勤務者の中には、職場で働く上司や同僚からの評価を気にして、長時間労働を続けてしまう人もいます。雇用者は在宅勤務者が業績評価について懸念や不信感を抱くことがないよう、適切な評価制度や賃金制度を構築しなければいけません。在宅勤務者は、働いている場所が会社以外の場所や自宅であるというだけで、決して楽な働き方をしているわけではありません。在宅勤務を理由に評価をおろそかにすることなく、業務の質や能力を考慮したうえで、正しい評価を行いましょう。

また、オフィスに勤務している労働者には、在宅勤務がどのようなペース配分で仕事をしているか、業務がどの程度進行しているかが見えません。そのため、在宅勤務者の都合を考慮せず打ち合わせの予定を組み込んだり、頻繁に連絡を入れたりして、仕事の効率を落としてしまう可能性があります。在宅勤務者が円滑に業務を進められるよう、業務内容や業務遂行方法などを明示しておきましょう。また、緊急時の連絡方法や通信費の支給方法といった条件も決めておくと、トラブルの防止につながります。

在宅勤務導入については就業規則など書面で明記することが大切

在宅勤務を導入する際は、事前に就業規則を見直したり、業務内容や緊急時の対処法などを文書として交付したりなどの準備が必要です。在宅勤務の頻度や労働時間、休日勤務に関する規定などを改めて確認し、労働基準法に反する点や不明瞭な点があれば就業規則へ盛り込んでおきましょう。在宅勤務が可能な条件も併せて決めておくと、在宅勤務を導入した後から慌てずに済みます。さらに、在宅勤務時の始業時間や就業時間の確認方法や、自発的に確認する際の確認方法も文書化しておきましょう。経費や勤務時間の上限も決めておくと安心です。不慮の事故やケガ、急病など緊急事態が起きた場合の対処についても周知徹底しておく必要があります。契約更新時など、必要に応じて規則が変化した場合も、必ず書面に明記しましょう。

まとめ

在宅勤務者は勤務する場所が会社の外であるというだけで、オフィスで働いている労働者と同様、業務に従事していることに変わりはありません。在宅勤務の導入を検討しているのであれば、労働基準法を正しく理解したうえで、違反することがないよう配慮することが必要です。

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