在宅勤務者を雇用保険に加入させる条件やポイントはなに?
人材不足を解消するための措置として、在宅勤務を活用する企業が増えつつあります。大手企業も在宅勤務を認めるなど、在宅勤務はやむを得ない理由から許可するのではなく、働き方のひとつとして捉えられていることがわかります。在宅勤務は、もはや人材不足解消には必要不可欠といっても過言ではないのです。
とはいえ、まだ在宅勤務を活用していない企業や現在導入の検討をしている企業の場合、在宅勤務についてさまざまな疑問や課題を抱えていることでしょう。そのひとつとして挙げられるのが、在宅勤務者の雇用保険事情についてです。今回は、在宅勤務として新たに雇用した場合に、雇用保険への加入は可能なのかについて詳しく解説していくとともに、加入させる条件やポイントについても説明していきます。
在宅勤務者とは?基本的な働き方やメリット・デメリット
まず、在宅勤務とは企業に雇用された状態で自宅を勤務場所として働くことを指します。何らかの企業で働いており、自宅で業務に従事することがあれば在宅勤務となるわけです。企業によってはほとんど出社しないケースもありますが、週に数日など必要に応じて在宅勤務をするなどさまざまな働き方が実施されています。在宅勤務の主なメリットは通勤がないこと、時間に縛られないことです。会社に通勤する必要がないため、在宅勤務者は無駄な時間を抑えられますし、なおかつ通勤が困難な場合であっても仕事に就けるのです。
会社で働く場合、育児や介護、配偶者の転勤など家庭の事情で通勤が困難になる労働者が出てきます。これにより、退職を余技なくされるケースは珍しいことではありません。在宅勤務を導入すれば家事との両立がしやすくなりますし、介護の時間の確保、夫婦や子どもなど家族との時間を大切にできます。結果的に退職を防ぐことに繋がるため、労働者にとっても企業にとっても大きなメリットといえるのです。ほかにも、人材確保が望めるメリットがあります。
在宅勤務であれば、出社する必要がないので居住地に関係なく多くの人が働けます。人材不足に悩む企業にとって、幅広い人材確保ができることは何よりも重要なメリットといえるでしょう。在宅勤務のデメリットはというと、労働管理が難しい、職種によっては在宅勤務を導入するのが難しい、コミュニケーションがとりにくいことが挙げられます。自宅で勤務する場合、電話がなったり家に来客が来たりといった出来事が発生しないとも限りません。
勤務中どの程度業務から離れても良いのかなど、在宅勤務はその線引きが難しく、事前にきちんと決めておかないと後でトラブルに発展するケースもあるのです。在宅勤務を検討する場合、労働者に特に責任を持って仕事をしてもらうのはもちろんのこと、可能であれば自宅近くのレンタルオフィスなどで仕事を認めるなど企業側が配慮してあげることも重要といえます。在宅勤務を導入しづらいことについては、製造業や飲食業などデスクワークの少ない職種は在宅勤務が難しいためです。
とはいっても、事務部門がある場合などには在宅勤務として導入しやすいため、活用する際は在宅勤務希望者を部署移動するといった方法をあらかじめ検討しておくことが大切になります。コミュニケーションについては、当然会社勤務で難なくできていたコミュニケーションや情報共有がとりづらくなるのが原因です。会社勤務では上司や同僚に直接聞いて話し合うことができますが、在宅勤務では基本電話やメールでのやり取りしかできません。
在宅勤務をするうえでコミュニケーション等のトラブルが発生しやすいため、在宅勤務を導入するならば、それに適したコミュニケーションツールなどの活用も求められるのです。
在宅勤務労働者の労働時間や手当はどう考えればいいのか?
在宅勤務では、労働条件については特別な法律が定められていないので、企業で働く人と同じ労働基準法に基づいて行われます。そのため、在宅勤務労働者であっても、フレックスタイム制と事業場外みなし労働時間制などを適用できます。フレックスタイム制とは、労働者が自分で始業時間や就業時間を決定できる制度のことです。勤務時間を労働者が自由に決められるため、労働者ひとりひとりに合った時間配分をしやすいのがメリットです。
ただし、労働者の自主性にゆだねることになるので、自己管理ができない労働者が出てくることがありますし、取引会社との仕事の時間調整が難しくなる問題も発生してきます。これを解消するために、フレックスタイム制を導入する場合は労働者への制度適用範囲を明確にし、必要に応じて一定の制限を設けることが重要になります。制限とは、コアタイム(勤務必須な時間帯)やフレキシブルタイム(定められた時間帯においては、勤務時間を自由に決められる)などのことです。
それに加えて、業務フローを作成し労働者の勤務時間に対する意識低下を防ぐことも求められます。一方の、事業場外みなし労働時間制とは、1日の労働時間を8時間と定めることで、実労働が5時間でも10時間であっても8時間労働したとみなす制度になります。在宅勤務など基本的に事業場外で勤務する職種は、労働時間の把握が難しくなりますよね。そこで、事業場外で働いているときでも一定の要件を満たしていれば、8時間労働したことにできる事業場外みなし労働時間制が用意されているのです。
事業場外みなし労働制が適用されると、8時間以上働いたとしても8時間労働とみなされるので、残業代が必要ないと考える人も多いかもしれません。しかし、業務をこなすために8時間以上の時間が必要と判断される場合には、超過分の時間が認められます。たとえば、業務に必要な時間が9時間であるならば、みなし労働時間として認められ、1時間分の残業代を支給する必要があるのです。法律で定められた法定労働時間(1日8時間、1週間40時間)を超えた労働に関しては手当の対象となりますが、時間外勤務に関しては許可制にするなどの措置が必要になることを頭に入れておきましょう。
また、混同されやすいですが、裁量労働制は事業場外みなし労働制とは異なります。事業場外みなし労働制は超過分の労働時間が認められますが、裁量労働制は実際に働いた時間ではなく、あくまでも一定の時間働いたとみなす制度になります。そのため、裁量労働制の場合はいくら働いても労働時間は一定です。また、対象者も裁量労働制は専門職や企画業務を行う人など、会社の外で働く人を対象とする事業場外みなし労働制とは異なります。ただし、裁量労働制の条件を満たしていれば、在宅勤務に導入することが可能です。
在宅勤務に適用される労働法令の範囲はいったいどこまで?
在宅勤務の場合、適用される労働法令は原則労働基準法になるので、導入するうえで注意しなければならない点がいくつか出てきます。まず、労働条件と労働時間についてです。在宅勤務では勤務場所を自宅にするなど就業場所を明示しなければならず、企業は労働者の労働時間を正確に把握しておかなければなりません。労働時間に関しても、労働者の労働日ごとの始業および終業時刻を記録する必要があります。
このほか、業績評価や経費、社内教育などの取扱いにおいて、それぞれ就業規則の記載が必須です。業績評価については、在宅勤務者と社内勤務者とで異なる規定を設ける場合に、本人にそれを説明したうえで就業規則の変更手続きをしなければなりません。また、在宅勤務において、通信費など業務に必要な経費を企業が負担する場合にも手続きが必要です。社内教育や研修などの実施を在宅勤務者に行う際も、就業規則への記載が求められます。
在宅勤務労働者を雇用保険に加入させることは可能なのか?
基本的に、条件を満たせば在宅勤務労働者の雇用保険への加入は可能です。その条件とは、労働基準法の「労働者」として認められることにあります。つまり、会社で勤務する労働者と自宅で勤務する労働者に同一性があれば、加入できるというわけです。企業は、雇用保険加入時に「在宅勤務者雇用実態証明書」をハローワークへ提出する必要があります。
この書類の提出は、基本的に雇用期間の途中から在宅勤務労働者となった場合にも提出が義務付けられています。加入条件を満たし必要な手続きを踏めば、在宅勤務労働者でも雇用保険へ加入できます。企業は、在宅勤務というだけで雇用保険への加入は必要ないと判断するなど、加入させないことがないように十分注意しなければなりません。
労働基準法における労働者の条件とは何を指している?
労働基準法における労働者の条件には、指揮監督系統が明確であること、拘束時間等が明確であること、労働者の始業時間と終業時刻の管理が可能であることなどがあります。たとえば、企業が業務の具体的な内容および遂行方法を在宅労働者に指示し、その進歩状況を本人から報告を受けて把握もしくは管理していれば指揮監督系統が明確だと判断されます。勤務時間が正確に定められ、労働者の自主管理ができており、本人の報告により勤務時間の管理ができているかどうかも大切な判断材料です。
このほかの条件として、勤務時間または期間をもとに報酬を出していること、請負や委任契約ではない(雇用契約である)こと、事業所勤務労働者と就業規則等の諸規定が同じであること、労働者名簿が作成されているかなども挙げられます。特に注意したいのは契約についてです。在宅勤務の場合、自宅で使用するパソコンは必ず企業が支給したものを使用させなければなりません。万が一、在宅勤務労働者本人が所有しているパソコンで業務を行った場合、請負契約とみなされる可能性があるため注意しましょう。
在宅勤務者が労働者として認められる条件とポイント
在宅勤務者が労働者として認められるためには、まず在宅勤務に関する規定を就業規則に盛り込む必要(労働基準監督署に届ける)があります。在宅勤務者が雇用保険へ加入できるようにするためには、専属で企業から雇用されていて、かつ請負契約ではないことを明確にしなければなりません。そのため、就業規則に在宅勤務に関する規定も明記し、企業と本人とで雇用契約書を交わしておくことが大切です。このとき、経費負担の金額および負担割合についてもしっかりと話し合いをしたうえで雇用契約書を締結しておきます。
ほかにも、業務ごとに決められたものではなく時給制や月給制などにして賃金を明確にしていること、またそれを就業規則に盛り込み労働時間を把握していることも条件です。在宅勤務で労働時間を把握することはなかなか難しいものですよね。この場合、ITツールを活用すれば原則的な時間管理を行うことができるのでとても便利です。ITツールを活用すると、パソコンのオン・オフやアプリの立ち上げと連動させて勤務時間の記録が可能になります。
一定時間パソコンの操作がない場合に自動的に不就労時間に切り替えられるソフトもあるので、勤務時間を正確に把握するためにも積極的な活用が求められるでしょう。なお、請負ではないことを明確にするために、パソコンや周辺機器はすべて企業が支給し、社員名簿には在宅勤務労働者も漏れずに記載することもポイントになります。
雇用保険の申請方法は?いつまでに申請できればいいのか
雇用保険の申請は、在宅勤務者を雇用した月の翌月10日までに、管轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出する必要があります。手続きには労働者名簿と出勤簿、賃金台帳や雇用契約書なども必要となりますが、企業によってはそのほかにも書類の提示が求められることがあるかもしれません。スムーズに申請を終えるために、詳しいことは事前に管轄のハローワークに確認しておくと良いでしょう。
在宅勤務労働者と在宅ワークを混同しないように注意する
在宅勤務労働者と在宅ワークを同じもののように考えている人もいるかもしれませんが、明確な違いがあります。その違いとは、雇用形態です。在宅勤務労働者とは企業が雇用している労働者のことで、在宅ワークはフリーランスなど企業に属さず、あくまでも自営的に業務を請け負う人を指します。さらに、在宅勤務労働者が企業と締結するのは「雇用契約書」ですが、在宅ワークは企業に雇用されているわけではないため「業務委託契約書」を請負先の企業と締結します。
そのため、在宅ワークの場合は雇用保険の被保険者ではありません。ただし、在宅ワークのフリーランスに業務を委託する場合は、相手と話し合い合意のうえで在宅勤務労働者として雇用することができます。この場合、在宅勤務労働者としての条件を整えれば雇用保険への加入も可能です。
まとめ
在宅勤務労働者であっても、一般的な労働者と同じように雇用保険へ加入することが可能です。ただし、労働基準法における労働者としての条件を満たしていることが重要になってくるので、就業規則などの条件を整えておくことに十分注意しなければなりません。労働者としての条件をきちんと満たしたうえで、雇用保険への加入申請を適切に行いましょう。