在宅勤務制度の問題点とは?具体的な導入の流れや対策を解説
在宅勤務制度を導入する企業は増えてきており、何らかの理由で自宅でしか仕事ができない人にとってはとても魅力的な働き方といえます。また、在宅勤務制度の導入は、優秀な人材を確保するうえでも効果的です。たとえば、出産や育児、ケガなどによって優秀な人材が辞めていってしまうのは、企業側としても大きな痛手となるでしょう。しかし、在宅勤務制度があれば、これまでは離職しか選択肢がなかった人でも、仕事を続けることが可能になります。ただし、メリットがある一方で、在宅勤務制度にはいくつかの問題点もあります。「問題点を解決しつつ、在宅勤務制度を導入するためにはどのようにしたら良いか」という点について具体的に考えておくことは、経営者として非常に重要なことです。この記事では、在宅勤務制度の問題点に触れるとともに、具体的な導入の流れや対策などについて解説していきます。
在宅勤務制度を実際に導入した場合に起こりうる問題点
在宅勤務制度を導入すると、企業と労働者の双方にメリットがあります。在宅勤務を導入した場合の企業側のメリットとしては、人材確保や業務の効率化、人件費の削減など、さまざまな事柄が挙げられます。しかし、在宅勤務制度を導入することによって、いくつかの問題点が起こる可能性もあるのです。まず、在宅勤務制度では、在宅勤務者と企業側のコミュニケーションが取りづらくなるという問題があります。従来のようなオフィスを固定化し、そこに毎日出勤して作業をするような働き方の場合は、従業員同士のコミュニケーションもとりやすくなります。しかし、特に常時型在宅勤務の場合には、出勤する機会がほとんどなく、コミュニケーションをとること自体が難しくなる可能性があるでしょう。
次に、在宅勤務者の就労実態を把握しにくいという問題もあります。就業規則をあらかじめ設けて労働時間を管理するなどしていれば、企業側も労働者一人ひとりの就労実態がある程度は見えてくる可能性があります。しかしながら、在宅勤務制度を導入している企業では就業規則を設けていないケースがあり、労働者の勤務実態を正しく把握することは非常に困難といえるでしょう。
また、成果を重視しすぎると、長時間労働につながりやすくなります。在宅勤務制度を利用して働く労働者が、仕事の質と量を維持し続けようとした場合、長時間労働を繰り返すことになるということはよくあります。ゆえに、在宅勤務制度を導入する企業としては、就労実態を把握するだけでなく、人事評価制度を明確にしておくことがポイントです。
さらに、在宅勤務制度は、IT系の企業を中心として普及しており、不動産業やサービス業などにも広がりを見せているという特徴があります。これらの業務では、インターネットを介して重要な情報をやり取りする機会があります。したがって、在宅勤務制度を導入することによって、情報漏洩のリスクが高まるという問題もあるでしょう。
問題点をうまく解決しながら在宅勤務制度を導入する流れ
企業が在宅勤務制度を導入する場合は、コミュニケーションの問題や就労実態の把握など、制度の導入によって起こりうるさまざまな問題点を解決することが求められます。在宅勤務を導入する流れとして、まずは基本方針を決定しましょう。制度を新しく導入しようとしている企業は、在宅勤務制度を取り入れる目的をはっきりとさせることがポイントです。目的を明確にするために、企業が抱えている問題点や現状を洗い出すことも忘れてはなりません。これらのことがわかれば、在宅勤務制度を導入する部署や範囲などもおのずと見えてくるでしょう。
次に、在宅勤務制度を導入するためには、社内ルールの見直しも欠かせません。社内ルールを見直すときには、実際に在宅勤務をする人の視点を取り入れることがポイントです。実際に制度を利用する人の意見を反映したルールを作ることで、在宅勤務をすることによって生じるデメリットや問題を最小限に抑えることができます。さらに、在宅勤務に必要なツールや環境の整備もしていきましょう。在宅で仕事をする場合でも、オフィスで働くときと同様に環境を整える必要があります。PC環境を整えるだけでなく、研修制度などの充実をはかるなど、生産性をあげる工夫をすることが大切です。新しいシステムなどを導入して、在宅勤務に適した環境をつくることによって、人為的なミスや問題の発生を抑えることにつなげましょう。
これらの準備が整ったら、在宅勤務制度の試行に移ります。試行期間は企業によってさまざまです。半年から1年程度の期間を試行期間とする企業が多く見られます。試行が終わると、次は分析です。働き方だけではなく、コスト面やシステム、コミュニケーションの頻度など、必要に応じた評価項目を設定し、それぞれ評価していきます。すると、改善点や問題点が見えてきます。最後に、評価を受けて制度の調整を行い、本格的な導入に移ります。在宅勤務の運用後も、修正を重ねて問題点を解決していくことが欠かせません。企業側は実際に制度を利用している人の意見を定期的に聞くなどして、問題点はないかどうかを把握しておきましょう。
在宅勤務の問題点への対策1:円滑なやり取りができる環境整備
在宅勤務を導入することによって、「社員同士がコミュニケーションをとる機会が少ない」という問題に直面する企業はめずらしくありません。在宅勤務を行うための準備として、円滑なやり取りができるように、環境を整備することが求められます。円滑なコミュニケーションがとれる環境を構築することは、在宅勤務の労働生産性を高めるためには必要不可欠です。在宅勤務制度を利用している人が同僚や上司とコミュニケーションをとるためには、電話やメールなどを使ったコミュニケーションがあります。
他にも、円滑なコミュニケーションのためには、バーチャルオフィスシステムを導入するという方法があります。バーチャルオフィスシステムとは、仮想空間のオフィスに社員が集まって、映像や音声、文字によってリアルタイムに連絡が取れるツールのことです。バーチャルオフィスシステムを利用すると、在宅勤務者とオフィスで仕事をする社員が同じ空間で働いているような感覚で連携することができるようになります。また、Web会議システムやテレビ会議システムでも、バーチャルオフィスシステムに近い運用が可能です。社員同士が情報を共有して生産性をあげていくためにも、コミュニケーションがとれる環境づくりを目指しましょう。
在宅勤務の問題点への対策2:就労実態を把握する仕組み作り
在宅勤務を導入すると、企業側は在宅勤務者の労働実態を把握しなければなりません。しかし、在宅勤務は「実労働が把握しづらい」や「仕事とプライベートをわけるのが難しい」などの問題があります。そのため、在宅勤務制度を始める準備として、在宅勤務者の就労実態を把握する仕組みづくりが必要です。企業側が就労実態を把握すると、労働力に対する正しい賃金の支払いにも役立てることができます。また、社員間の公平性を保つためにも、就労実態の把握は欠かせません。
在宅勤務者の就労実態を知るためには、クラウド型勤怠管理システムの導入を検討してみると良いでしょう。クラウド型勤怠管理システムとは、在宅勤務者が画面の勤怠ボタンをクリックするだけで、勤怠報告ができるツールのことをいいます。そのため、これまでオフィスで使われていたようなタイムカードの準備や、手作業で労働時間を入力する手間は一切かかりません。さらに、クラウド型勤怠管理システムは、在宅勤務者の作業内容を管理者が確認するためにも役立ちます。
ただ、就労実態を確認するためのシステムによっては、他人がなりすますことができるものも見られるのが実情です。なりすましを防止するために、顔認証や指紋認証などの機能を持ったシステムもあります。自社に合った勤怠管理システムはどれかをしっかりと見極めたうえで、システムを取り入れることが大切です。
在宅勤務の問題点への対策3:根本的な人事評価制度の見直し
在宅勤務制度を導入するのであれば、人事評価制度を根本的に見直す必要があります。在宅勤務者は、働いている姿を管理者が確認することはできません。たとえば、在宅勤務者にクラウド型勤怠管理システムを取り入れたとしても、オフィスワークのように上司や同僚が働いているところを直接目にすることは難しいといえます。しかしながら、仕事の成果のみを人事評価の対象としてしまうことにも問題があります。成果のみを評価の対象とした場合、「高い成果をあげなければならない」や「ちゃんと働いているか疑われているのではないか」などと在宅勤務者が思い、プレッシャーに感じるケースがあるでしょう。すると、仕事の量と質を維持しようという思いから、長時間労働につながってしまう恐れもあるのです。
在宅勤務者の仕事を評価するにあたっては、プレッシャーやストレスを感じずに働ける制度を構築する必要があります。また、人事評価制度を見直すのであれば、在宅勤務者の不安や疑問点について、企業側がしっかりと把握しておくことも大切です。企業と社員がともに納得できるような人事評価制度を構築し、運用することが重要です。
在宅勤務の問題点への対策4:セキュリティ対策の強化
在宅勤務制度を導入する準備のひとつとして、セキュリティ対策の強化も欠かせません。在宅勤務制度を採用している企業は、IT系を中心として広がりを見せています。具体的には、SEやプログラマー、CADオペレーターなどの仕事です。これらの仕事は専門性が高く、インターネット環境が整っている場所ならどこでも仕事ができるという特徴があります。
ただし、インターネットを介して組織が持つ個人情報や機密情報をやり取りする場合には、外部の脅威から情報を保護するシステムを導入するのが好ましいといえるでしょう。一般的に、インターネットの回線を用いてデータのやり取りをするときには、改ざんや盗聴などの恐れがあります。そのため、データは厳重に保護された状態で送受信を行うことが求められます。たとえば、仮想プライベート・ネットワークを導入すれば、暗号化されたネットワークの使用が可能です。この仮想プライベート・ネットワークなら、自宅や外出先でも、従来のオフィスのようにネットワーク環境を使うことができます。また、在宅勤務者が使用するノートパソコンには、ウイルス対策ソフトウェアなどをインストールしておくことも必要です。これらの対策を行って、セキュリティにも配慮していきましょう。
在宅勤務の問題点への対策5:在宅勤務をする社員への研修
在宅勤務をする社員に対して必要な研修を行っておくことは、企業と従業員の双方にメリットがあります。在宅勤務者が重要な情報を取り扱う場合は、個人レベルで気を付けることが求められます。そのため、制度を導入する前には、情報セキュリティ意識についての研修が必要です。また、在宅勤務者がスムーズに業務に取り組んでいくために、さまざまな業務用ツールの使い方や必要な知識などを、研修を通してしっかりと伝えておくことも欠かせません。研修を行った後にも、企業として在宅勤務者をフォローしていくような仕組みを作っておきましょう。
在宅勤務制度を導入した後は定期的な顔合わせも必要!
在宅勤務制度を導入した後は、在宅勤務者がそれぞれ自宅で仕事を行うことになります。自宅で作業をするようになると、「怠けがちになる」や「コミュニケーションが少なくなることから生産性が落ちる」などの問題につながる恐れがあります。そのため、制度をスタートさせた後も、定期的な顔合わせの機会を設けて適切なコミュニケーションをとったほうが、仕事の生産性もあがるといえるでしょう。
たとえば、在宅勤務制度を導入するにあたってビジネスツールを使って連携している場合でも、在宅勤務者は孤独を感じやすい環境にいることに変わりはありません。ツールを導入していても、お互いに本音を言うことができなかったり、相談しづらい状況であったりするなどの問題があれば、それが在宅勤務者が孤独を感じる原因となるでしょう。仕事をスムーズに進めるためには、オフィスで働く社員との定期的なコミュニケーションが欠かせません。定期的に顔を合わせる機会があれば、在宅勤務者のモチベーションを維持することができ、会社との距離もおのずと近くなります。そうしたことで、在宅勤務者の離職を防ぐ効果も期待できます。
まとめ
在宅勤務制度の問題点を解決するには、さまざまな対策方法があります。必要な対策方法を講じておかなければ、生産性が落ちてしまったり、在宅勤務者がすぐに離職してしまったりするなどの問題につながる恐れがあります。そのため、制度の問題点を挙げたり、十分な試行期間を設けたりするなどして、制度そのものをブラッシュアップしておくことが大切です。実際に制度を導入する前にしっかりと情報を収集して準備を進めていき、在宅勤務制度をうまく活用しましょう。