リモートワーク部TOPリモートワークの基本知識労災保険は適用可能か?在宅勤務者の労働管理や就業規則

労災保険は適用可能か?在宅勤務者の労働管理や就業規則

国が推進する働き方改革の影響もあり、テレワークによる在宅勤務を導入する企業が少しずつ増えてきています。柔軟な働き方を大切にすることによって、地方企業であっても優秀な人材を確保できるチャンスが生まれるなど、雇用者側にもメリットが大きいといえるでしょう。もちろん、疾病や障がいによって仕事に就くのが難しい人に対しても、在宅勤務は活躍のフィールドを提供するものとなり得ます。

しかし、在宅勤務者は通常の労働者と異なる部分が多いため、労働管理や就業規則の適用をどうすれば良いか悩んでいる経営者も多いことでしょう。また、在宅勤務であっても労働者であることに変わりはないため、労災保険の適用などについては漏れのないように準備しておかなくてはなりません。今回はリモートワークを検討している経営者を対象に、在宅勤務者に対する就業規則や労働管理の適用について説明します。

企業においての在宅勤務とは具体的にどんな働き方があるのか?

企業における在宅勤務では、通勤をせずに自宅で勤務することとなります。インターネット環境を利用したメールやチャット、または電話で関係先と連絡を取り、パソコンなどのデバイスを使用して作業を行うのが一般的です。会社などから離れた場所を就業場所として勤務する働き方のことを、リモートワークと呼びます。

働き方改革の一環として国が導入を推進しているリモートワークには、この在宅勤務も含まれています。その他、顧客先や移動中において仕事をするモバイルワーク、さらにはレンタルオフィスなどのオフィススペースを利用して勤務するサテライトオフィスも、リモートワークの一種です。リモートワークの導入には関係者全員の理解と協力が必要になります。しかし、何も会社全体がリモートワークを一気に導入しなければならないわけではありません。実際にはリモートワークを希望する人だけを対象として、月に数日だけ自宅で勤務してもらうようにするなど、本人の事情に応じて部分的に導入することも多くなっています。

たとえば、介護や育児、ケガのリハビリなど、一時的に通勤が困難となった場合は、リモートワークに切り替えることでこれまでと同じように働いてもらうことが可能となります。また、総務や人事、経理のように、パソコンやネットワーク環境さえあれば仕事ができる管理部門や、一部の研究開発部門も、部分的に在宅勤務を取り入れることができるでしょう。営業やサポートサービスのように、オフィス外での勤務が中心となる職種にも、リモートワークは適用しやすいといえます。もちろん、雇用者と労働者の希望が一致すれば、働き方に応じて完全に在宅勤務に切り替えるのも、もしくは部分的に在宅勤務を取り入れるのも自由です。

在宅勤務導入の準備1:導入前の研修実施の有無について

在宅勤務を導入するにあたって準備しておかなくてはならないもののひとつが在宅勤務についての研修です。日本における企業雇用者の在宅勤務は少しずつ増えてきているとはいえ、全体として普及率はまだまだ低いといえるでしょう。そもそも、リモートワークの必要性や効果、メリットなどを理解している人もそう多くはありません。そのため、実際に導入する際には在宅勤務の対象者だけではなく、上司や同僚といった関係者全員も含めた研修が必要になります。

特に、リモートワークに対する管理職の理解は必須です。在宅勤務と社内規程との整合性を確認するのはもちろんのこと、評価や勤怠管理、業務管理をどのように進めていくのかについても理解してもらわなくてはなりません。また、正しい業務伝達を行うためには、リモートワーカーに対するコミュニケーション手段を明らかにしておくことも必要です。なお、リモートワークでは電話やメールの他に、ネットワークを介したコミュニケーションツールを利用することも考えられます。専門的なツールを利用する場合には、使用方法などを含めた研修も行わなければならないでしょう。技術的なトラブルが起きたときの対応なども考慮すると、必要に応じて外部から専門スタッフを招いて研修を行うことも望ましいといえます。

在宅勤務の対象者は自宅にひとりで勤務することとなるため、業務上の問題が発生したときに対処するのが難しいものです。したがって、上司や同僚を含め、リモートワークの関係者全員が積極的に解決するという姿勢を持っておかなくてはなりません。こうした姿勢を関係者全員が共有するためにも、研修は不可欠であるといえるのです。

在宅勤務導入の準備2:労働法の問題や就業規則の規定

リモートワークに関する規程を作成しておくことも、在宅勤務導入の準備として必要なプロセスです。リモートワーカーも企業に雇用されている労働者である以上、就業規則の適用を受けることを明示しておかなくてはなりません。リモートワークに関する規程の作成においては、就業規則を直接改正する場合と、リモートワークに関する勤務規程などを新たに定める場合が考えられます。

就業規則の改正にあたっては、主に5つのポイントを意識しておく必要があります。一つ目は、リモートワークの労働条件を明確にしておくことです。特に、就業場所の範囲を明らかにすることが必要であり、在宅勤務であれば自宅も就業場所のひとつであることを規則で明示しておかなくてはなりません。二つ目は、労働時間の把握です。労働日の設定はもちろんのこと、始業時刻と終業時刻を明らかにしておく必要があります。三つ目は、業績評価や人事管理についての方法です。もし、リモートワーカーに対して一般の労働者とは異なる評価方法や人事管理を行うのであれば、就業規則への明示が必要になります。また、リモートワークを適用する従業員に対しても、相違点について丁寧に説明することが求められるでしょう。

四つ目は通信費などの利用負担をどのようにするかという点です。在宅勤務の場合は主にインターネットによる通信手段を用いて仕事をすることとなるため、通信費を従業員と企業のどちらが負担するかを決めなくてはなりません。なお、従業員に負担させる場合は、就業規則に明記しておく必要があります。そして五つ目は、社員教育についての取り扱いです。リモートワーカーに対して社内教育や研修制度を適用する場合もまた、就業規則を改正する必要があります。

在宅勤務導入の準備3:勤務中の健康管理や労災保険の適用

在宅勤務導入の準備として、リモートワーカーの健康管理についても整備が必要となります。健康管理として重要になるのが、定期健康診断です。事業者は常時使用する労働者に対して、年に1回の定期健康診断を実施しなくてはなりません。もちろん、リモートワークの対象者にも適用されるため、受診方法などについて取り決める必要があるでしょう。会社の規模に応じてストレスチェックの実施や、長時間労働者に対する面接指導も、他の労働者と同様に行うこととなります。

特に、リモートワークにおいてはディスプレイやキーボードといった、いわゆるVDT機器を長時間使用することになります。VDT作業による心身の負担を軽減するためにも、厚生労働省が定めた「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン(平14.4.5基発第0405001号)」に基づき、健康管理に留意して助言を行うことが必要です。ガイドラインではディスプレイの照明や採光の照度に関する基準値や、まぶしさを感じないようにするための措置、あるいは機器から発せられる騒音についての対応などが示されています。このような内容をもとにした環境整備についても配慮しておかなくてはなりません。

また、他の労働者と同様に、リモートワーカーも労働者災害保険法の適用を受けます。傷病と業務のあいだに一定の因果関係が認められた場合は業務災害として認定されることがあるので、労災保険の準備が必須です。なお、在宅勤務の場合は業務上必要な移動を除き、基本的に通勤による労災は発生しません。しかし、モバイルワークや施設利用型勤務の場合は、通勤災害が適用されることもあるので留意しておきましょう。

在宅勤務導入の準備4:セキュリティ対策とルールの策定

セキュリティ対策とそのルールの作成も、在宅勤務の導入における必要な準備です。リモートワークでは基本的に会社用のパソコンを使用します。しかし、会社用のパソコンには業務関連のデータが多く含まれているため、盗難や紛失による情報漏洩を防ぐためにも、セキュリティの確保が必要です。具体的な手段として、端末へのログイン認証には多重認証や生体認証を活用することなどが推奨されます。また、クラウドサービスへのアクセス認証や、ハードディスクの暗号化、ウイルス対策ソフトの導入なども必要となるでしょう。もちろん、会社用パソコンを私的に使用することは固く制限しなければなりません。

一方、場合によっては私物のパソコンで業務を進めることも可能です。私物のパソコンを業務で使用することはBYODと呼ばれ、リモートデスクトップ方式を併用することによってセキュリティを確保することができます。なお、どのパソコンを用いる場合でも意識しておく必要があるのは、業務に関する情報は企業にとっての資産であり、リモートワーカーはその資産を社外で取り扱っているということです。こうした自覚を行動に結びつけるためには、技術的なセキュリティだけではなく、遵守すべきルールの策定が不可欠であるといえます。具体的なセキュリティルールの策定については、総務省の「テレワークセキュリティガイドライン」を参考にしてみましょう。

在宅勤務導入の準備5:勤務中の光熱費等の負担について

在宅勤務にかかる費用をどのように負担するかについても、在宅勤務を導入する前に決めておかなくてはなりません。パソコンをはじめとする情報通信機器については、会社が貸与するケースが多いといえるでしょう。一方、通信回線費用については少し複雑です。通信回線費用は主に工事費、基本料金、通信回線使用料などに分けられます。このうち、新たにネットワーク回線を引く場合に発生する工事費は、会社負担となることもあります。基本料金や通信回線使用料についても、個人使用と業務使用の割合を算出することが難しいため、会社が一定額を負担することが多いでしょう。同様に、水道光熱費についても個人使用との按分が困難であることから、大抵は勤務手当に一定額を加算することとなります。

その他、業務上必要となる文具や備品、宅配便等の費用についても、支払い方法をあらかじめ定めておかなくてはなりません。たとえば、会社へ送る宅配便については着払いとするのが良いでしょう。しかし、文具や備品といった物品の場合は、会社で購入してから送るか、法人払いできる店で購入してもらうか、あるいは立替払いで精算するなど、いくつかの方法が考えられます。スムーズに在宅勤務を進めるためにも、支払いに関する基本的なルールをあらかじめ定めておくとともに、具体的な方法をマニュアル化して運用するのが良いでしょう。

助成金など国の支援制度について知りたい!

ワークライフバランスを推進するものとして、厚生労働省では在宅またはサテライトオフィスといったリモートワークを実施する中小企業を対象に、助成金を支援する制度を実施しています。支給対象となる事業主は、資本金及び労働者数に関して、中小企業としての条件を満たしていなくてはなりません。資本金については、飲食店を含む小売業とサービス業の場合で5000万円以下、卸売業で1億円以下、それ以外の業種で3億円以下となっています。また、労働者数については、飲食店を含む小売業の場合で50人以下、サービス業と卸売業の場合で100人以下、それ以外の業種で300人以下が条件です。

対象となる事業主は、助成金の受給にあたり、支給対象となる取り組みを実施します。具体的な取り組み内容は、テレワーク用の通信機器の導入または運用、保守サポート、クラウドサービス、就業規則や労使協定等の作成または変更、研修や周知、及びコンサルティングです。このうち、いずれか1つ以上を実施しなければなりません。なお、申請者は1~6カ月のあいだで評価期間を設定し、期間中にあらかじめ定めた成果目標を達成することが求められます。支給額は成果目標の達成状況に応じて決定され、目標達成時の支給額は取り組みにかかった経費の4分の3、未達成の場合は2分の1です。また、支給額の上限が設けられており、達成時の場合は社員ひとり当たりの上限が20万円、企業の上限が150万円となっています。一方、未達成の場合は社員ひとり当たりの上限が10万円、企業の上限が100万円です。

助成金など国の支援制度の相談窓口は?

リモートワークに関する助成金や国の支援制度に関しては、相談窓口として「テレワーク相談センター」が設けられています。在宅勤務の導入においてわからないことがある場合は、同センターへ問い合わせてみるのが良いでしょう。同センターにはテレワーク専門相談員が設置されており、リモートワークの導入に関する悩みや疑問について無料で相談することができます。

東京都の相談窓口の連絡先は、電話番号が0120-970-396、メールアドレスがsuishin@japan-telework.or.jpです。また、東京都以外の相談窓口の連絡先は、電話番号が0120-91-6479、メールアドレスはsodan@japan-telework.or.jpになります。いずれの窓口も、対応時間は土日祝日と年末年始を除く9~17時です。

まとめ

本記事での解説内容は、リモートワークの導入時に経営者や人事担当者が抱えやすい疑問が中心になっています。研修の実施や就業規則の改正、健康管理や労災保険の適用など、導入においてはいくつもの準備を進めていかなくてはなりません。しかし、リモートワークは労働者と雇用者の双方に大きなメリットがあるため、準備の苦労を買ってでも進める価値があるといえるでしょう。もちろん、リモートワークの拡大はまだまだこれからであり、企業の担当者にとっても不明な部分は多いはずです。導入にあたって困ったことが発生した場合は、テレワーク相談センターへ相談してみるようにしましょう。

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