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在宅勤務のルール作りの基本は?ポイントと決めておきたい項目

日本では高度経済成長期を支えてきた団塊の世代が一斉退職する時代に突入しており、少子化と相まって人手不足が顕著になってきました。特に財政基盤が弱く、福利厚生に対する投資が難しい中小企業では大企業に比べて人材確保の問題が深刻化しています。そこで、注目を集めているのがリモートワークです。リモートワークを上手く活用すれば、広い範囲で求人を募集できるので人材確保が容易になる可能性があります。しかし、初めてリモートワークを導入する企業において、採用した人材の就業時間や給与、費用負担などの規則作りに悩むこともあるでしょう。この記事では初めて在宅勤務を導入する企業に向けて、ルール作りのポイントや決めておきたい項目について紹介します。

在宅勤務で決めておきたい項目1:労働時間を明確にする

在宅勤務を導入するにあたって、まず決めておきたいのは「1日の労働時間」です。在宅勤務で採用した場合でも労働基準法の適用範囲に含まれます。よく勘違いする人もいますが、在宅勤務してもらっているからといって、労働基準法の適用外である個人事業主扱いにはならないので気を付けましょう。そのため、1日の労働時間は基本的に8時間以内(1週間で40時間以内)となります。違反してしまうと「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という罰則の対象になるので、注意しなければいけません。

また、意外と見落としがちなのが休憩時間に関する規則です。労働基準法では「6時間を超えて働くときは少なくとも45分」「8時間を超えて働くときは少なくとも1時間」の休憩時間を労働者に与えなければならないと明記されています。休憩時間の規則に違反したときも1日の労働時間と同じ罰則の対象になります。労働時間については、そのほかにも「始業時間」や「終業時間」「休日や休暇」をきちんと決めておくことも大切です。それは、在宅勤務ではどうしても労働者の就業管理が難しい部分があるからです。

しっかりと時間や休日の規定を定めていないと労働者は「仕事さえこなせればいいや」と考えてしまい、不規則でケジメのない勤務体系になる危険があります。ただし、休日や休暇については通常の勤務と変わらない場合は、特別に定める必要はありません。必要に応じて設けるようにしましょう。

在宅勤務で決めておきたい項目2:給与や手当について

在宅勤務で決めておきたい項目の2つ目は「給与や手当」です。給与や手当については曖昧なまま仕事を依頼してしまうと、後からトラブルが発生する可能性が高いので気を付けましょう。とはいうものの、在宅勤務で働く人に対して無理に特別な規則を作る必要はありません。それまで通りの就業規則内で対処できる程度の報酬を支払う予定なら、在宅勤務の労働者を雇ったからといってその部分の規則を変更しなくても大丈夫です。しかし、業務内容や特別な手当てを支払う場合など、これまでの就業規則では対処できないような事案が発生するときは変更する必要があります。

特に在宅勤務の人事評価制度については注意が必要です。なぜなら、在宅勤務の労働者と出勤してくる労働者では同じ制度で評価することは難しいケースがあるからです。人事評価は適切に行わないと社内のモチベーションが下がってしまいます。社員のモチベーションを上げて社内の生産性をアップさせるためにも、適切な人事評価制度の構築は不可欠です。人事評価制度を新設したり改定したりするときは就業規則に追加しなければいけないので、適切に対処しましょう。

在宅勤務で決めておきたい項目3:作業環境の安全衛生

在宅勤務はその名前のとおり、雇用契約を結んだ労働者の自宅で作業をしてもらうことが基本です。そのため、作業環境については軽視されがちですが、雇用主は労働者の労働環境を適切に保つ義務があります。そのため、在宅勤務者の安全衛生にも気を配るようにしましょう。労働者の安全衛生面で気を付けるべきポイントは主に「作業環境」「健康診断」「作業管理」の3つです。作業環境で特に注意すべきなのは「立ち寄りオフィス勤務」と「サテライトオフィス勤務」です。これらの業務形態をとっている企業は労働安全衛生法に則った作業環境を整えなくてはいけません。

また、雇用した労働者が顧客先のオフィスに勤務する「顧客先オフィス勤務」を営んでいる場合、作業環境について顧客と綿密な打ち合わせをする必要があります。万が一、顧客の労働環境に問題がある場合には、改善策などを話し合わなくてはいけません。その際、労働者を派遣する企業には顧客先の労働環境を指示する権限はありませんが、顧客先は事務所衛生基準規則が適用されるということは覚えておくとよいでしょう。

在宅勤務で決めておきたい項目4:健康診断などの安全衛生

一般的に在宅勤務契約を結んだ労働者の健康管理は自己の判断に委ねられがちです。しかし、在宅勤務契約を結んだ場合でも、通常勤務する労働者と同じように雇用主には労働者の健康を確保する義務があります。そこで、企業によっては福利厚生も兼ねて定期的な健康診断や長時間労働者による面接指導など、自助努力を行っているケースもあるでしょう。また、事業者には労働者の健康増進を図るために必要な措置を取ることが努力義務として規定されています。そのため、自助努力を行っていない企業であっても何かしらの対策を取ることは必要です。

ただし、在宅勤務の場合、通常勤務と比べて労働者の所在地が企業の所在地と離れているケースがあるのが問題です。在宅勤務を採用したときの健康管理の実施方法については、労働者が遠隔地に住んでいることを前提に考えておく必要があります。本社に出勤できる場所に住んでいれば問題ないでしょうが、場合によっては個別の機関を利用してもらうなどの特別な対応を考えておかなければいけません。仮に健康相談などの対策を義務付ける場合には、就業規則に追加する必要があります。

在宅勤務で決めておきたい項目5:作業管理での安全衛生

業種によっても異なりますが、在宅勤務の仕事内容はデスクワークが主体です。そのため、パソコンを長時間見ることで起こる眼精疲労からくる頭痛や、座ったままの姿勢をキープすることで起こる腰痛といった症状が出やすくなります。適度に体を動かすなどの腰痛防止を目的としたルール作りは考えておきましょう。しかし、いきなり在宅勤務の作業管理に関するルール作りをするのは難しい場合があるのも事実です。そこで、頼りになるのは厚生労働省が発表している「VDT作業 における労働衛生管理のためのガイドライン(平14.4.5基発第0405001号)」です。ガイドラインを参考にしながら、ルール作りを進めていくと作業がスムーズに進みます。

ガイドラインに記載されているとおり、腰痛防止を目的にする健康体操や連続作業時間に関する規定を新設する場合には、就業規則にその旨を追記する必要があります。

在宅勤務で決めておきたい項目6:情婦漏洩などセキュリティ

在宅勤務は人出不足を解消するために有効な方法のひとつですが、「情報漏洩する可能性がある」というリスクもあります。情報漏洩する可能性自体はどの企業にもあるものですが、職場で管理する場合と比べて在宅勤務では作業内容の監視に限界があるのも事実です。そのため、情報漏洩のリスクという観点から考えると、在宅勤務のほうが高くなってしまいます。そこで大切なのが、情報漏洩を防止するための規則を決めておくことです。重要な資料の扱いや不正アクセスなどについてあらかじめルールを決めておくとよいでしょう。

可能であれば在宅勤務者の使用するパソコンの操作権限を制限する方法が考えられます。権限を制限することで不要なファイルやデータベースへのアクセスを防ぐことができ、情報漏洩するリスクを軽減できます。セキュリティ対策で会社の規定を変更する場合は、就業規則を変更しなければいけません。また、情報漏洩はどれだけ対策を取っていたとしても、どの企業にも起こる可能性があるリスクです。そのため、万が一情報が漏洩した場合のことも考えてマニュアルを作成しておくとよいでしょう。情報が漏洩した場合に社内の連絡体制や外部の専門機関への依頼の有無などの対策を事前に考えておくことで、スムーズな対策が可能になります。

在宅勤務で決めておきたい項目7:勤務中にかかる費用負担

在宅勤務の勤務中にかかる主な費用負担としては、通信費や水道光熱費が考えられます。結論からいうと、在宅勤務で発生するこれらの費用を雇用主と労働者のどちらが負担するべきなのかはケースバイケースです。労働基準法では「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない」とされています。つまり、就業規則に明記した状態で労働者と合意すれば、どのような割合で費用負担の取り決めを行っても問題ありません。なお、在宅勤務では水道光熱費や通信費などは個人使用と業務使用の区別がつきにくいです。かかった費用をきれいに算出することは難しいので、一般的には割合や1日当たりの金額などをあらかじめ決めておいてから契約する場合が多くなっています。

また、光熱費以外にもパソコンなどの情報通信機器にかかる費用負担についても考えておかなければいけません。情報通信機器については企業が貸与するケースも多く、その場合は全額企業側が負担するケースもあります。費用負担は明確に決めておかないと、後々のトラブルにつながる可能性が高いです。在宅勤務の就業規則の作成を行う会社でも労使協定を結んだり、労働条件通知書を活用したりして周知するように心がけましょう。

在宅勤務で決めておきたい項目8:教育訓練や研修について

在宅勤務で新規に雇用した場合や新しい業務を任せる場合には、教育訓練や研修が必要な場合があります。適切な教育訓練や研修を行うことで、顧客に対して上質なサービスを提供することにつながり、自社の役に立ってもらう人材を育てることが可能です。そのためには、在宅ワークを募集している目標と必要性を新規に雇用する労働者だけでなく、自社の社員にも知ってもらうことが重要になります。なぜなら、在宅勤務を初めて導入する企業側にとっても、効率の良い作業方法について考えていく必要があるからです。自社の社員と在宅勤務の労働者の双方が最も効率良く作業できる方法についての見識を深める必要があります。

ただし、業種によって必要な訓練や研修の期間は異なります。定期的に行う必要のある企業もあれば、一時的に行えば十分な効果を発揮する企業もあるでしょう。そのため、在宅勤務を新たに導入するときは、教育訓練や研修の期間や内容についてあらかじめ決めておくことが大切です。もちろん、実施する訓練や研修の内容に合わせた就業規則の変更は必要です。十分な準備をしたうえで在宅勤務を導入しましょう。

在宅勤務に必要なルール作りのポイントとは何かを押さえておこう

在宅勤務を導入するにあたって決めておかなければならないルールには給与規則から職場の労働環境、費用負担まで多岐にわたります。しかし、大前提として考えておきたいのは、在宅勤務の業務規定はあくまでも就業規則の一部だということです。新たに在宅勤務者を雇う企業の場合、すでにいる通常勤務者の就業規則を整備しているケースが多いでしょう。そのため、既存の就業規則で対応できる範囲で在宅勤務者を雇用する場合には、変更する必要はありません。要するに、既存の就業規則で対応できない部分だけ変更すればよいのです。つまり、在宅勤務者の雇用形態と通常勤務者との雇用形態にどういう違いがあるかを確認する作業がポイントになります。

在宅勤務者と通常勤務者の雇用形態の違いを見つけたら、就業規則を変更する手続きにとりかかりますが、あえて「既存の就業規則とはまとめない」というのもひとつの方法です。なぜなら、在宅勤務者の就業形態は通常勤務者と異なるからです。たとえば、人事評価制度では、通常勤務者は仕事に対する取組みや姿勢まで含めて評価できますが、在宅勤務者の場合はそうした部分の評価は難しいケースが多いです。在宅勤務者の場合は、どうしても「どれだけの仕事をこなしたか」といった成果主義を採用したほうが適切な評価をしやすくなります。このように相反する評価制度を同じ項目に記載するのは難しいので、あえて通常勤務の社員とは別に在宅勤務者用の就業規則を設ける方法もあるのです。

いずれの場合も、在宅勤務者のルールをもとに就業規則の変更を行った場合は、所轄の労働基準監督署へ届出する義務があるので忘れないようにしましょう。

まとめ

少子高齢化で労働者の少なくなっている日本では、在宅勤務の制度を上手く活用することが大切です。特に中小企業は人手不足に悩まされがちなので、積極的な活用を検討しましょう。ただし、在宅勤務を導入するときは事前準備をしっかりしておかないとトラブルが発生するケースもあります。導入を検討している段階から必要なルールは何かを洗い出し、どのように決めるのがよいかを議論しておくことが大切です。在宅勤務者も基本的には通常勤務者と同じ就業規則で働いてもらうことになりますので、変更が必要な項目だけ修正すれば問題ありません。変更点を忘れずに就業規則へ反映し、在宅勤務者を迎え入れる準備をしておきましょう。

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