働き方改革のテレワークガイドラインをわかりやすく解説!
少子高齢化による労働人口の減少によって、慢性的な人手不足に陥っている中小企業が多く存在します。優秀な人材の確保や業務効率化など、経営者にとっての課題は年々厳しさを増しています。一方で、2019年4月1日から「働き方改革・改正法」が適用になりました。働き方改革では、さまざまな事情を抱える人たちのニーズを満たす職場環境の実現を目指しています。中でも推奨されているのがテレワークです。時代の流れに対応するため、中小企業の経営者は従業員の多様な働き方を受容していく必要があります。そこで今回は、厚生労働省が掲げる働き方改革のガイドラインを紹介します。テレワークのメリットやデメリット、テレワークを導入する際の留意点などをわかりやすく解説しましょう。
テレワークとはどんな働き方?メリットとデメリットを解説
テレワークとは、インターネットや電話など情報通信技術を利用した事業場外勤務のことです。テレワークには3つの種類があります。1つ目は「在宅勤務」です。自宅が職場になるため、仕事と家庭の両立がしやすいメリットがあります。2つ目は「モバイル勤務」です。労働者が働く場所を自由に選ぶことができ、移動時間の有効活用ができます。3つ目は「サテライトオフィス勤務」です。自宅や通勤途中にあるサテライトオフィスで仕事ができるため、通勤時間の短縮につながります。
労働者にとってのテレワークのメリットは、家庭との両立がしやすい点です。小さな子どもや介護が必要な家族がいる場合、毎日通勤しながらのフルタイム勤務は大変です。親の介護で会社を辞めたり、子育てのために非正規雇用に切り替えたりする人も少なくありません。その点テレワークなら、通勤時間や時間外労働の削減が期待できます。企業側にとっても、育児や介護による離職の防止が可能です。テレワークの導入で労働者のニーズに応えられれば優秀な人材も確保しやすく、オフィスコストの削減にもつながります。
一方、テレワークにおける労働者側のデメリットは、長時間労働になりやすく、仕事とプライベートの切り分けも難しくなる点です。特に、在宅勤務は自宅が職場になります。いつどこでどのくらい仕事をするのか自由に決められる分、作業が終わらなければ長時間労働に発展する恐れが出てきます。また、従業員の労働時間を管理しにくい点は会社側のデメリットです。従業員と会社側、双方におけるデメリットを避けるには、テレワーク導入前に、労働時間のルールを決めておく必要があります。労働者自身も、仕事とプライベートを分ける意識が大切です。
労働基準法や最低賃金法などテレワークの法令に関する留意点
テレワークでも、通常勤務と同じ法律が適用されます。留意したい法律は、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、労働者災害補償保険法の4つです。労働基準法は、労働条件の最低基準について定めた法律です。賃金の支払いや労働時間の原則、就業規則などについて規定を定めています。長時間労働の抑制に関しては労働基準法の一部が改正されており、平成22年4月1日から施行されています。
最低賃金法は賃金の最低額に関する法律です。もともと労働基準法から派生している法律で、都道府県における最低賃金の遵守が求められます。平成30年の全国加重平均時間額は874円ですが、「働き方改革実行計画」では全国加重平均1000円を目指しています。2019年4月現在、最低賃金の目標を達成するために、厚生労働省では中小企業に対する支援も実施中です。
労働安全衛生法は、労働者の健康管理に関する法律です。業務上の危険防止基準や責任体制の明確化などを目的としています。テレワークでは、離れた場所で働く従業員の安全対策やメンタルヘルス対策が重要です。目の届かない範囲にいる従業員を守るために、一層細やかに施策の制定をしなければなりません。万が一、健康を害してしまった従業員のケアも大切です。
労働者災害補償保険法は、いわゆる労災保険について定めた法律です。労災保険はすべての従業員に適用されます。もちろん、テレワークも例外ではありません。多様化する働き方に合わせて、労災保険のルールも細かく取り決める必要があります。以上、4つの法律を遵守しつつ、従業員が安心して働けるルール作りをしていきましょう。
労働基準法に関する留意点1:労働条件や労働時間について
労働基準法では、労働条件や労働時間に留意しましょう。従業員を雇用する際は、労働条件の明示が必要です。求人情報には、在宅勤務やサテライトオフィス勤務などテレワークの募集であることを明記しましょう。従業員がテレワーク勤務を希望した場合は、就業可能な場所を雇用者が明示します。従業員が働く場所を選べるモバイル勤務なら、就業場所を許可制にするのも効果的です。離れたところで従業員が働いていても、セキュリティ面で配慮しやすいメリットがあります。
従業員の労働時間の把握も重要です。労働時間とは、雇用者が従業員を指揮命令下に置いている時間のことです。雇用者には、労働者の労働時間をしっかり把握する責務があります。たとえば、パソコンの使用時間をチェックすることで、従業員の始業時間と就業時間の把握は可能です。待機や業務の後片付け、業務研修、学習などの時間が生じた場合も、指揮命令によるものであれば労働時間とみなします。一方で、テレワークは業務から離れる中抜け時間が発生しやすい点も特徴です。中抜け時間は指揮命令外とすれば、休憩時間や時間単位の年次有給休暇とすることができます。
テレワークではフレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制、裁量労働制なども活用可能です。ただし、フレックスタイム制の労働時刻は、従業員が決定します。みなし労働制は労働時間の算定が難しく、裁量労働制は長時間労働に陥りやすい点がデメリットです。いずれの方法も従業員の労働時間は適切に把握しなければなりません。また、休日手当や時間外手当については、雇用者が許可した場合に限り適用できます。手当を強制した場合は例外です。
労働基準法に関する留意点2:長時間労働を抑えるための対策
厚生労働省は、仕事と家庭の両立困難、女性のキャリア形成の阻害、過労死などの原因が長時間労働にあると定義づけています。2019年4月からの「時間外労働の上限規制」施行からも、国が長時間労働の是正に力を入れていることがわかります。中小企業の経営者にとって、人材は貴重な財産です。従業員の健康を守るために、長時間労働を抑制するルールづくりを心がけましょう。考えられる方法は次の4つです。
1つ目は、休日や深夜におけるメールの送付を抑制することです。従業員同士はもちろん、役職者による時間外メール送付も自粛する必要があります。いくらルールとして時間外や休日のメールを禁止しても、経営陣からのメールは無視しにくいのが従業員の心情ではないでしょうか。従業員にルールを周知するだけではなく、会社全体が一丸となってルールを守る必要があります。2つ目は、システムに対するアクセス制限を設ける方法です。時間内に仕事が終わらないと、深夜や休日にパソコンを開きたくなってしまう人もいます。特に、自宅が就労場所だと、時間外に延々と作業しがちです。アクセス制限をかけておけば、強制的に長時間労働を排除できます。
3つ目は、深夜や休日など時間外のテレワークを禁止にする、もしくは許可制にする方法です。たとえば、睡眠時間を削って仕事をしても集中力がなくなり、かえって業務効率は悪くなります。従業員のワークライフバランスを維持するためにも、時間外労働の禁止が効果的です。4つ目は、長時間労働を繰り返す従業員に対して常に注意喚起を行う方法です。頻ぱんに呼びかけを行うことで、従業員の意識変革を促しましょう。
労働安全衛生法に基づいたテレワーク労働者の健康管理
テレワーク労働者の健康管理は「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を基準に行います。VDTはVisual Display Terminalsの略です。要するに、パソコン作業の多い従業員に対する衛生管理についてのガイドラインです。在宅勤務の場合でも、就労場所の室内温度設定や換気は適切に行うよう、事務所衛生基準規則に基づいて指導します。仕事がしやすいように、照明や採光を維持することも大切です。通常、オフィス照明は一定の明るさを保てるよう照明器具がセットされていますが、自宅の場合は必ずしもそうではありません。
パソコンのディスプレイについても、推奨する明るさを提示しておきましょう。まぶしさを感じさせずに適度な明るさを保つ照度は、書類や手元を見る場合は300ルクス以下、ディスプレイは500ルクス以下です。また、業務の合間の休憩についてもルール化しておきます。1時間に1回は休憩する、ストレッチをして肩こりや腰痛を防ぐなどを指示しましょう。従業員の健康診断やストレスチェックなどを実施するのもおすすめです。テレワークでは、従業員の業務状況が把握しにくいからこそ、徹底した健康管理のルール化が重要です。
テレワーク労働者に対する労働災害の補償についての留意点
どこで就業していても、従業員である以上は労働災害の保証が適用されます。テレワーク労働者も例外ではありません。仕事場が自宅でも、業務が原因で疾病や負傷を負った場合は、労災保険の給付金を受けられます。たとえば、パソコンで作業中、資料を取りに席を離れたとします。パソコン作業を再開するため椅子に座ろうとしたところ、椅子から落ちて倒れてしまいました。もし、このときに捻挫や骨折などのケガを負った場合は、業務災害となります。途中離席がトイレ休憩によるものでも、労災は認定されます。
ただし、業務から逸脱した行為によって疾病や負傷を負った場合は、労災認定されません。たとえば、業務時間外や指示された業務とは異なる行為をしていた場合などです。実際は、所轄の労働基準監督署が労災かどうかの判定を行います。労災認定されるシチュエーションについては、正確な情報をテレワーク労働者に伝えておく必要があります。従業員の健康を守ると同時に、不正受給を防ぐためにも重要です。
労働者と企業側のズレがないようにテレワークを進めるポイント
テレワーク業務をスムーズに進めるには、従業員と企業間の認識にズレが生じないように気を付けることがポイントです。テレワークにおける経費負担や評価ルールは、明確に決めておきましょう。特に、経費負担については実際の業務が始まる前に作成しておく必要があります。基本的には、業務にかかる経費は雇用者側の負担です。特に、在宅勤務の場合は、インターネットや電話などの通信費がかかります。もし、通信費を従業員に負担させるなら、あらかじめ就業規則に規定しなければなりません。
業績評価は、オフィス勤務の従業員同様に行います。テレワークには、労働時間の把握がしにくいという問題があります。しかし、その点を理由に偏った評価をするのは望ましくありません。雇用者側の評価に対して従業員が疑問や不安を抱かないように、明確な評価ルールを提示しておきましょう。もし、通常の従業員と異なる評価制度のうえで賃金を変えるなら、就業規則の作成と労働基準局への届出が必要です。
テレワークに関する取り決めについて就業規則にまとめる
前述した経費や賃金以外にも、テレワークでは通常勤務とは違った労働条件が発生しやすくなります。テレワークと通常勤務の就業規則が異なる場合は、テレワーク勤務用の就業規則をまとめる必要があります。労働時間や賃金、条件などの内容を盛り込み、所轄の労働基準監督署に届けなければなりません。一般的な規定は「テレワーク勤務を命じる際の規定」「テレワーク勤務用の労働時間に関する規定」「通信費などの負担についての規定」の3つです。詳しくは、厚生労働省が発行している「テレワーク モデル就業規則~作成の手引き~」を参考にしましょう。
わからない点があれば、所轄の労働基準監督署に相談をすれば丁寧に教えてくれます。社労士や弁護士に相談しながら作成するのもおすすめです。社労士も弁護士も法律の専門家です。アドバイスを聞きながら作成できるほか、内容のチェックや過不足の指摘などもしてくれるでしょう。労働問題のエキスパートである社労士はもちろん、労働問題を扱う弁護士なら安心です。
まとめ
テレワーク労働者は、離れた場所で業務を行います。お互いの姿が見えないと、齟齬が生じやすくなります。だからこそ、テレワークに関する労働条件や健康管理に関する規則は、事細かなルール化が必要です。テレワークが円滑に進めば、業務効率化や優秀な人材の獲得につながります。厚生労働省のテレワークに関するガイドラインはかなり詳細な内容になっており、わかりにくい点が多いかもしれません。不明点があれば、労働基準監督署や社労士などの専門家に相談をしながら、テレワーク用の就業規則を作成していきましょう。