「働き方改革」におけるテレワークとは?企業側のメリットを紹介
最近、TVや雑誌などのメディアで「働き方改革」が話題になるにつれて、「テレワーク」という働き方が取りざたされるようになりました。しかし、こうした言葉自体は聞いたことがあっても、具体的な内容については知らない人も多いかもしれません。政府が進める「働き方改革」において、テレワークはどのような位置づけにあるのでしょうか。実は、テレワークは働く側にとって「働き方改革」を実現するだけでなく、企業にとっても導入することでさまざまなメリットのある働き方なのです。そこで今回の記事では、そもそも「働き方改革」や「テレワーク」とは何かの説明をはじめとして、企業がテレワークを導入するメリットや注意すべきポイントをまとめました。
「働き方改革」とはすべての人が社会で活躍するための施策
「働き方改革」は、「一億総活躍社会」を実現するための施策です。一億総活躍社会とは、家庭・職場・地域で誰もが活躍できる社会を指しています。現在の日本では、多くの人たちが働き方に関する問題を抱えています。過酷な長時間労働が原因で命を落としたり、精神的・肉体的に健康を損なったりしてしまう人も、残念ながら珍しくありません。また、雇用形態による賃金の差や、一部の業界では労働に見合わない低賃金なども問題になっています。さらに、子育てや介護に時間を取られて、働きたくても働けない人も大勢いるのです。こうした働き方に関する問題を改善すべく、2016年9月、安倍晋三首相によって内閣官房に「働き方改革実現推進室」が設置されました。
厚生労働省によれば、この改革の基本的な考え方は、「働く人たちがそれぞれのライフスタイルや事情に合わせて、多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにしよう」というものです。そのため、働き手が多様な働き方を実現するために、長時間労働や非正規雇用処遇の改善、柔軟な働き方の導入などを含む9つの項目において、改善案が模索されています。こうして進められている「働き方改革」は、働き手だけの問題ではありません。働き手を雇う側の経営者や企業担当者が中心に対応を求められるため、そうした立場にある人は、しっかりと内容を理解しておきましょう。
「働き方改革」によって解決を目指している課題や目的
働き方改革が進められている背景には、労働力の不足傾向が挙げられます。日本が抱えている少子高齢化や人口減少などの深刻な問題によって、日本経済を支える主力となる人口の低下・労働力不足が懸念されています。近い将来には、主力となる働き手がピーク時の半分を下回る予想が出ており、日本全体の生産力の低下、国力の低下を回避するため、早急な対応が求められる課題となりました。そこで政府は、働き手を増やすための解決策として、働き方改革を進めているのです。
将来の働き手を増やすためには、出生率を上げることも必要です。日本社会では長時間労働が目立っており、そのことも出生率に影響していると考えられています。女性の中には、働き盛りのときにキャリアか家庭かの選択を迫られて、出産・子育てを断念する人もいます。積み上げてきたキャリアを途中で断念することは、女性にとっても勇気のいることでしょう。産休制度もあるとは言え、出産を終えた女性の社会復帰にまつわる問題も多く、子育てをしながらの業務は容易ではありません。女性が安心して出産を決断できるよう、育児と仕事を両立できる環境をつくり、女性だけでなく男性も育児や家事に協力できる状況をつくる必要が叫ばれているのです。
「働き方改革」とテレワークにはどのような関係があるのか?
最近では、パソコンをはじめとして、スマートフォンやタブレットなどの通信機器が広く普及しています。これによって、誰でも気軽にインターネットにアクセスできる環境が整ってきました。「テレワーク」とは、こうしたICT(情報通信技術)を利用することで、時間や場所にとらわれずに業務が進められる働き方です。テレワークは英語でTele workと書き、Teleは「離れたところで」ということを意味しています。つまり、本来働く場所である職場から離れたところで仕事をする、という意味ですね。イメージとしてはよく聞く「在宅ワーク」に近いですが、そのうちテレワークに分類されるのは、パソコンなどの機器を使って1週間に8時間以上の勤務を行う場合です。
テレワークの働き方には大きくわけて「在宅勤務」、「モバイルワーク」、「サテライトオフィス勤務(施設利用型勤務)」の3種類があります。
在宅勤務の場合はオフィスに出社することなく、1日の業務をすべて自宅で完結できるのが特徴です。子育てや介護などの事情で長時間家を空けられなかったり、病気や怪我で通勤が難しかったりといった場合にも役立ちます。自分で働く環境を整えられるのも魅力でしょう。
モバイルワークは、移動中(交通機関の車内など)などの隙間時間や、外出先のカフェなどを利用して勤務を行う形態です。特に、営業などで出先にいることが多い場合は、移動時間を有効に使えて、かつ、オフィスに戻ることなく業務を進めることができます。
サテライトオフィス勤務というのは、所属する会社の遠隔勤務用の拠点を利用する働き方です。顧客の近くや従業員の自宅近くに設置されるケースが多く、通勤時間を削減できるなどのメリットがあります。
こうした勤務形態を持つテレワークを導入することで、従業員はワーク・ライフ・バランスをとりやすくなります。有効に利用できれば長時間労働の削減にもつながるため、「働き方改革」の取り組みのひとつとして注目を集めているのです。テレワークの課題とされていた運用コストやセキュリティ面の問題は、情報通信機器の発達などによって解決されつつあります。業務の効率化や潜在的な人材の獲得など、従業員だけでなく企業にとってもメリットの大きい働き方です。
企業にとってのテレワークのメリット1:優秀な人材を集めやすい
テレワークを導入することで、企業は一部の従業員の通勤時間を短縮、またはなくすことが可能です。これによって、遠隔地の居住者も採用選考に参加できるようになり、地方に所在する企業が地方にはなかなかいないスペシャリストを雇用することもできます。世の中には、優秀なスキルを持ちながらも時間や行動範囲に制約があり、働くことを諦めている人も少なくないでしょう。そうした人材を獲得することは、企業の人手不足を解消するとともに、生産性の向上にもつながります。また、優秀かつ経験豊富な管理職を確保するチャンスも増えます。場合によっては、海外在住の従業員を雇用することもできるでしょう。
従業員が離職を申し出る理由として、配偶者の転勤や子育て、介護など、時間や距離の制約が関係していることも少なくありません。優秀な人材であれば、企業としても手放したくありません。とは言え、プライベートに関する重要な問題なので、引き止めることは難しいでしょう。テレワークでの柔軟な働き方ができるようになれば、こうした家庭の事情によるやむを得ない離職が減り、優秀な従業員が安心して長く働けるようになるはずです。雇用継続につながれば、結果的に、企業は採用や育成にかかるコストも抑えることができます。
企業にとってのテレワークのメリット2:業務の生産性が向上する
オフィスで仕事をしていると、突発的な打ち合わせや会議によって業務が中断されることがあります。また、事務職であれば電話対応に追われて、その他の仕事が思うように進まないこともあるでしょう。テレワークを導入することで、従業員はそうした問題に左右されることなく、予定通りに仕事を進めることができます。また、同僚との世間話や付き合いのせいで仕事の時間を無駄にすることもありません。誰にも中断されず落ち着いた環境で仕事に集中できるため、結果的に仕事の効率がアップするのです。
一方で、誰にも見られないことで緊張感が失われ、生産性が落ちるのでは、という懸念があるかもしれません。実は、厚生労働省の調査によれば、テレワーカーに対するアンケートで「タイムマネジメントを意識するようになった」という意見が、「電話や話し声に邪魔されず、業務に集中できる」という回答に次いで2番目に多いという結果になっているのです。テレワークを利用する人には時間の制約がある人も多いため、限られた時間でいかに効率よく業務を終えられるか、という点に注力するのでしょう。
さらに、オフィスに勤務している従業員においても、移動時間や待ち時間などを利用して業務が進められるため、無駄な時間を最小限に抑えることができます。業務時間内の生産性が向上するため、時間外労働の削減につながり、残業代の支給が減ることも期待できます。従業員にとっても、長時間労働が改善できるのはうれしいポイントとなります。災害発生時にも無理な通勤をしなくても良いため、従業員の命を守るとともに、オフィスの機能が失われたときでも業務が止まらないというメリットもあります。
企業にとってのテレワークのメリット3:経費を削減できる
オフィスで従業員が働くためには、デスクや椅子などの備品をはじめとして、さまざまなオフィス用品が必要です。さらに、それらを置くスペースも用意しなければいけません。人数が増えれば、広いオフィスへの移転が必要になることもあるでしょう。そうなれば、費用だけでなく労力もかかりますし、場合によっては一時的に業務を停止する必要が出てくるかもしれません。その点、テレワークであれば自宅のみで仕事が完結できるため、確保が必要な備品の数やスペースを減らせるというメリットがあります。また、光熱費などの固定費も削減できることや、人件費に含まれる交通費などを大幅に減らすことも可能です。働きやすい環境が整うことで社員が定着するため、新たな採用にかかる費用や育成のためのコストも必要最低限に抑えることができるでしょう。
企業にとってのテレワークのメリット4:イメージがよくなる
テレワークなどのリモートワークを導入することで、ワーク・ライフ・バランスを重視した「先進的な企業」「従業員に配慮がある企業」という良いイメージができやすくなります。企業ブランド・企業イメージが向上すれば認知度のアップにもつながり、営業活動や採用活動においても有利に働く機会が増えるでしょう。求人を出したときにも、より多くのエントリーを獲得できる可能性もあります。そうなれば、より優秀な人材と巡り合うチャンスも増えるはずです。
企業にとってのテレワークのメリット5:連携を強化できる
リモートワークを導入する場合、社外と社内を結ぶため、ソフトウェアやツールを利用するのが一般的です。企業や業務内容に適したソフトウェアやツールを利用すれば、仕事の流れや処理状況を可視化することにもつながり、社員同士の連携を強化することもできます。利用されるソフトウェアやツールの例として、「バーチャルオフィスシステム」や「クラウド型勤怠管理システム」が挙げられます。
バーチャルオフィスシステムとは、インターネット上の仮想空間の中にオフィスをつくり、そのなかで音声や映像、文字などのあらゆる手段を使って、リアルタイムに連絡が取れるシステムです。これによって、実際のオフィスで顔を合わせなくても、業務に必要な報告、連絡、相談を行うことができます。また、「クラウド型勤怠管理システム」は、リモートワークをしている人が画面上の勤怠ボタンを押すだけで、管理者に勤怠報告ができるシステムです。これによって、労働時間の管理が難しいテレワーカーの勤務状況を把握することができます。
「働き方改革」のテレワークを企業が導入する際のポイント
多くの企業では、会議資料や業務に関わる書類を紙に印刷し、保管しています。しかし、社外で働く従業員が円滑に業務を進めるためには、社内情報をデジタル化しておかなければいけません。社内でも、インターネットを介したやり取りに重きを置き、ペーパーレス化を推進する必要があるでしょう。また、これまで紙で保管されていた書類なども、必要に応じてPDF化などのデジタル化が求められるかもしれません。さらに、リモートワークで社員が働く様子は、管理者が実際に確認することができないという注意点もあります。働いている様子が見えない分、業務の進捗状況や結果で判断されやすいため、成果を出すためにかえって従業員の勤務時間が長くなる可能性もあります。こうした可能性も踏まえつつ、従業員を正しく評価するためには、人事制度の見直しも求められるでしょう。
まとめ
今後の働き方改革において、テレワークが重要な役割を果たすことは間違いないでしょう。テレワークを導入することは、人手不足の解消や企業のイメージアップなど、企業側にとってもさまざまなメリットがあります。今の負担を減らしたい既存の従業員にとっても、これまで働く機会に恵まれなかった人たちにとっても、期待できる制度になるでしょう。テレワークの重要性は、安倍政権後もますます高まることが予想されています。ポイントを意識し、しっかりと準備を整えてテレワークを導入しましょう。