テレワークの事例を参考にしよう!国内と海外について紹介
テレワークという働きかたは、国内・海外問わずさまざまな企業で導入されつつあります。しかし、実際にはまだまだ普及率が高いとは言えないのが実情です。というのも、実際にテレワークの導入を考えてはいても、それをどのように運用していったらよいのか、悩みを感じている企業が多いからです。せっかく導入をしても、効果的に運用できないのであれば意味はありません。そこで、この記事では、テレワーク導入の現状やポイントをはじめ、実際に国内や海外でテレワークを導入している事例を紹介していきます。テレワーク導入を検討している企業の経営者や担当者は、これらのモデルケースを参考にすれば、自社のテレワーク制度導入を成功させるヒントになるはずです。
進み方が遅いテレワーク導入の現状について把握しよう!
日本では、少子高齢化や労働人口の減少に伴う問題への対策として、「働き方改革」が国家主導で推進されるようになりました。その1つの具体的な方法が、テレワークという働きかたなのです。しかし、テレワークの導入はまだまだ進んでいるとは言えません。総務省の発表では、2018年に日本でテレワークを導入している企業は13%程度なのです。海外と比べると、とても「多い」とは言えない数字です。理由はいくつか考えられますが、テレワークの導入に対して「ハードルが高い」と感じている企業が多いのもその1つです。実際、テレワークの導入についてはそれほど困難な問題はありません。大きくは2つであり、一つ目は就業規則にテレワークの労働形態に適用できる項目を追加し、体制を整え周知徹底すること。2つ目はコミュニケーションや労務管理のツールとしてICT環境を整えることです。
しかし、実は日本においてテレワークが別の成果を求められるようになっていることも事実でしょう。テレワークは、もともと育児や介護などで出社が困難な人のために推進された制度でした。しかし、それがもはや「従業員全員」がテレワークの対象となっています。というのも、先進国の企業が大きく成長してきたポイントは「イノベーション」であると考えられるようになったためです。時間の余裕を生み出し、働く場所を自由化し、社内外でさまざまな人たちと関わることが大切とされています。そのため、海外の企業との競争において求められているのは、生産性を高めることや時間を効率化することと考えられているのです。多様な方面と交流することで「イノベーション」を高めることが求められています。そうした状況が、日本の企業のテレワーク導入に対する敷居を高くする要因になっているのかもしれません。
ICTツール整備が進むアサヒビール株式会社の導入事例
アサヒビール株式会社は、2015年に半年のトライアルを行った後、正式にテレワークを導入しています。同社のテレワークは、育児や介護中の従業員のみではなく、一定の条件を満たす多くの従業員を対象としているのが特徴です。実際、テレワークをしている人の事情としては介護や育児が多いのですが、それ以外の理由も増加傾向にあります。男性の管理職などがこのテレワーク制度を利用し、家族との時間を増やすことに活用している事例もあるのです。実際、テレワークを利用している人の声を聞いても、「テレワークでフルに働きたい」という意見が多くなっています。利用者からもテレワーク制度はとても評価が高く、ニーズも高いと言えるでしょう。テレワークを活用することで、従業員のワークライフバランスが実際に向上しているのです。
今後は、このテレワーク制度を全従業員が利用できるように整備していくことを目標としています。具体的には、全国の事業所において勤続1年以上の従業員を対象とすることが考えられています。そして、今よりさらに柔軟な制度へと発展させていくことが見込まれています。そのために、ICTツールの整備が着々と進められているのです。同社がノートパソコンやモバイルルーターを対象者に配布し、通信環境をしっかりと整えていく取り組みも実施しています。また、webを通した「web会議」も積極的に活用しているのです。
全社員対象のリクルートホールディングスのリモートワーク事例
リクルートホールディングスでは、テレワークを「リモートワーク」と呼び、オフィスや自宅以外の作業環境を整備しているのが特徴です。そうした環境をサテライトオフィスと呼び、2015年には都内に5~6拠点しかなかったものが、219年現在35拠点にまで増加しています。サテライトオフィスを設置することで、オフィスまで出勤する必要がないので、大幅な移動時間の削減に役立っています。また、リモートワークを導入することで、これまでは時差の関係で難しかった海外駐在中の従業員との会議も、早朝などに自宅で行えるようになりました。
しかし、リモートワークとして働く環境整備を整えるためには、ただ「環境を用意すればいい」というわけではありません。そのため、常に工夫や改善を重ねているのです。たとえば、すべての従業員と派遣社員に、上限日数を設けずにテレワーク制度を利用できるようにしています。上司の判断により、個々の状況に応じてテレワークを選択することができるのです。これは、リクルートホールディングスが働く従業員の「意思」を大切にしていることの現れとも言うことができるでしょう。テレワークを導入して環境を整え、従業員が自由な働きかたを選択できるように推奨しているのです。
子育て中の社員に適用されるローソンのテレワーク事例
ローソンが最初にテレワークを行ったのは2008年で、トライアルを行ったあとに本格的に制度を開始しました。そして、そのまま現在も継続して活用されています。テレワークを導入した目的は「子育て支援」であり、小学3年生までの子どもがいる従業員が対象となっているのが特徴です。テレワークの制度自体は導入した頃とあまり変わっていませんが、常に一定数の利用者がいることから、そのニーズの高さがうかがえます。特に大きなきっかけとなったのは、男性の管理職がこのテレワーク制度を利用したことです。制度を導入した当初は、弱者である子育て中の女性を守る、というニュアンスで解釈されていることがほとんどでした。しかし、その男性がこの制度を利用したことで「誰でも利用できる」ということが広まるようになったのです。
なお、同社のテレワークは短時間勤務や半日休暇とあわせて利用することも可能です。テレワークを利用するかどうか、ということについても担当者からしっかりと制度の説明、利用するかどうかの確認がなされます。そのため、積極的に制度を利用しやすい環境が整っていると言えるでしょう。
生産性アップの効果が認められたパナソニック株式会社の事例
パナソニック株式会社では、2006年に在宅勤務制度「e-Work」が試行されたのを皮切りに、2007年から本格的にテレワークが導入されるようになりました。利用しているうちの4分の1程度が女性となっており、テレワークが可能な上限日数は、1カ月の勤務日数の2分の1とされています。利用頻度が高い人は週に2~3回となっており、平均すると月に1回程度利用している人が多いようです。また、拠点となるオフィスは全国に14拠点あり、月に7,000人ほどが利用しています。利用するタイミングとしては、従業員が各地域に出張したときに使うことが多くなっているようです。
「リモートワークを導入してどのように変わったか」というアンケートでは、実際に利用した人の約7割が「生産性が上がった」と回答しています。資料の作成や情報収集、プログラミングなどがリモートワーク時の主な作業になるため、集中して作業ができるリモートワークには最適なのです。短時間で効率的な成果が出せるため、利用者からは好感を持って受け入れられています。しかし、中には対面して話をしたほうが早く済む場合もあるので、すべての業務がリモートワークに適しているとは言えません。トライ制度もあるので、そちらを利用してリモートワークを体験することもできます。
育児や介護中の社員が利用できる江崎グリコ株式会社 の事例
江崎グリコ株式会社は、2015年4月からトライアルをスタートし、その年の12月から本格的に導入を始めました。同社では導入当初から各部門がテレワークに対して好意的で、それぞれの部門の管理職は、積極的な利用を促しています。また、テレワークに必要なパソコンやiPhoneのシステム開発をシステム担当の部署が受け持つなど、各部門の連携・協力の姿勢が普及につながった経過があります。実際、利用する側だけでなく上司側の意見としても「制度の継続を希望する」といった肯定的な意見が多く聞かれます。企業が目指す「さまざまな立場の人が活躍する組織づくり」が、組織全体に受け入れられているのでしょう。
テレワークの具体的な内容は、育児や介護などの事情がある場合にかぎり、自宅で1週間に20時間を上限として導入しています。しかし、子どもの急な病気ややむを得ない事情によっては、上司の判断でそれ以上の利用も可能です。ただし、午後9時から午前6時までは基本的に勤務が禁止されています。これは、終日テレワークを利用するのではなく、「数時間だけ」といったように部分的に利用されることが多いのも理由の1つと言えるでしょう。時間がきちんと設定されていることで、働きすぎを防止することにもつながっています。
コスト削減や優秀な人材確保の効果!AT&Tの取り組み事例
アメリカのAT&Tでは、勤務するマネージャーの実に6割以上がテレワークを利用しています。また、そのうち完全にテレワークをしている人が2割、「週に1日だけ」というように部分的にテレワークを利用する人が3割強にも上るのです。この数字から見ても、アメリカにおいてテレワークという働き方がいかに定着しているかということが分かるでしょう。アメリカでは、大企業も中小企業も、テレワークは「働きかたの1つ」であり何も特別なものではないのです。
テレワークを採用することにより、実際にさまざまな効果も出ています。具体的には、集中時間の増加やコスト削減、優秀な人材の退職の防止が実現したのです。テレワークの効果は、何も業務の効率化だけではありません。自由に働きかたを選べる環境を提供することで、優秀な人材が居心地の良さを感じ、組織にとどめられる効果もあるのです。海外の企業においても、従業員のワークライフバランス向上にいかに取り組むかが人材確保の重要なポイントとなっています。
リスク分散効果!カリフォルニア州政府のテレワーク取り組み事例
アメリカのカリフォルニア州政府も、テレワークに取り組んでいます。その歴史は1985年にまでさかのぼり、「パイロットプロジェクト」というテレワークをスタートさせたのが始まりでした。アメリカにおいても、これほど早期にテレワークを導入した例は珍しく、アメリカのテレワークのパイオニアとも言えるでしょう。その利用者は年々増加しており、600名を超える従業員がテレワークを利用するようになっています。もちろん、その間にもいくつか課題は出てきましたが、そのたびに試行錯誤をくり返し、課題に取り組み、利用者を拡大してきたのです。
育児や介護における支援が最大のテーマとして導入されたテレワークでしたが、その効果は他のところでも発揮されることとなりました。1989年、1994年にカリフォルニア州を襲った大規模な地震において、テレワークの「リスク分散」の効果が証明されたのです。そのため、アメリカにおいてはワークライフバランス向上の他にも、「災害におけるリスク対策」としてテレワークを利用しているところもあります。
テレワークを廃止した企業から学ぶコミュニケーションツール活用
企業の中には、テレワークを廃止したところもいくつかあります。具体的には、アメリカのIBM社がテレワークを廃止しています。その失敗要因としては、「コミュニケーション不足」が考えられています。テレワークをするということは、上司や同僚と顔を合わせる機会が減ることになります。そうなると、どうしてもコミュニケーションが円滑にできなかったり、情報をうまく得られなかったりすることが起きるのです。顔を見てコミュニケーションを取るのと、文字や図だけでコミュニケーションを取るのとでは、情報量に圧倒的な差が生まれてしまいます。テレワークの導入を考えている場合、そのポイントをしっかりと考えていく必要があるでしょう。
幸いにも、テレワークに利用できるテレビ会議ツールなどが次々と開発されています。そういったものを積極的に活用していくことで、問題点を改善できる場合もたくさんあるでしょう。
テレワーク導入を成功させるポイントを押さえて継続させよう!
テレワークの導入を成功させるためには、いくつかコツがあります。まず、経営陣が明確な指示を出し、成果を公平に評価することが大切であると言えるでしょう。せっかく導入を始めても、指示が不透明であったり、成果に対する評価が不公平であれば、従業員の満足度は下がるばかりです。明確でクリアな運用を心がけるようにしましょう。
また、テレワークを継続させるためには、ワークライフバランスに配慮し、テレワーク従事者が働きすぎないようにする仕組みの構築も大切です。テレワークには、「個々の労働時間をどのように管理するのか」といった問題があります。この問題をしっかりと対策しておくことで、働きすぎを防止する取り組みにつなげることが必要となります。
まとめ
テレワークは、ただ「導入すればいい」というものではありません。それぞれの企業の目的に合った方法で導入し、さらに継続して育てていくことが大切なのです。紹介した「成功している導入事例」を参考に、テレワークの導入を進めていくようにしましょう。