テレワークとリモートワークは何が違う?企業が使うべき言葉は?
少子高齢化などにより、人手不足は深刻の度合いを増しています。経営の行き詰まりではなく、人が足りないという理由で倒産している企業も増えているのです。一方、新しい働き方として注目されているものにテレワークやリモートワークがあります。こうした働き方を望んでいる人は少なくありませんし、企業側としてもそれをうまく活用することで有能な人材を獲得するチャンスが広がっていきます。ただ、雇用に関わっている人たちがそれらの用語についてどれだけ正確に理解しているかは疑問です。
実際問題、テレワークとリモートワークの違いを正確に説明できるという人は少ないのではないでしょうか。そこで、人手不足に悩んでいる企業経営者や人事担当者の参考になるように、2つの用語の違いや使い分けのコツなどについて解説をしていきます。
テレワークはリモートワークの古い呼び方
テレワークとリモートワークというふたつの言葉を比べた場合、より歴史が古いのは前者です。その起源は1970年代にまでさかのぼります。当時、世界では自動車による大気汚染が深刻で、2度に渡る石油危機などもあり、その結果、アメリカ・ロサンゼルスでは自動車で通勤するライフスタイルを見直す動きが出てきました。そこで、新しい働き方として提唱されたのがテレワークです。テレワークとは英語で「telework」と表記され、「tele = 離れた所」と「work = 働く」という2つの言葉を合わせた造語です。要するに自宅やサテライトオフィスなどを利用し、会社以外の場所で仕事を行うことを意味します。
この働き方は大地震によって多くの企業が業務停止に陥ったことを教訓にし、90年代のアメリカではごく普通の働き方として定着していきました。一方、日本で最初にテレワークが導入されたのは1984年のことです。この年から日本電気(NEC)が吉祥寺にサテライトオフィスを作り、そこでテレワークが行われていた事実が確認されています。ただ、日本で本格的にテレワークが普及し始めたのは2006年以降のことになります。2006年に政府がテレワーク人口の普及を目指すと表明し、それをきっかけとしてそのシステムを導入する企業が増えていったというわけです。
それではリモートワークのほうはどうなのかというと、テレワークから派生した言葉だと考えられています。ちなみに、テレワークと似たものとしては他にも、「在宅勤務」や「ノマド」といった言葉があります。
テレワークとリモートワークの定義に違いはある?
日本にテレワークが導入された当初、それは「出社の負担を減らすことが目的の働き方」という位置付けでした。そのため、会社から遠く離れた地方にいながらでも仕事ができるようにとサテライトオフィスを設けていったというわけです。しかし、総務省が現在定めている定義によると「ICT(情報通信技術)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」となっています。単に負担を減らすというだけではなく、働き方の幅を広げるという点に重点が置かれているのです。
それではリモートワークはどうかというと、「在籍する会社のオフィスに出社をせずに、自宅やサテライトオフィスなどといった会社から離れた場所で業務を行う勤務形態」といった具合に定義されている場合が多いようです。ちなみに、リモートとは「遠く隔たった」といった意味があります。こうして比較をしてみると、テレワークとリモートワークという2つの言葉には根本的な違いはないという結論になります。それでも、あえて区別をするのであれば、リモートワークのほうがより具体的な定義になっているといえるかもしれません。また、より次世代を意識した言葉だともいえます。
いずれにしても、人事担当の立場からすると似たような2つの言葉が飛び交っていると混乱をしてしまいがちです。そこで、基本的には同じ意味であり、微妙なニュアンスだけが異なるという事実をまず押さえておきましょう。その点を念頭において考えれば、いたずらに混乱するということもなくなるはずです。
海外におけるテレワークとリモートワークの違い
日本では似たような意味で用いられているテレワークとリモートワークですが、アメリカにおいては両者の定義にはかなり明確な違いがあります。まず、テレワークは日本の場合とはニュアンスが異なり、「オフィスで働くことをメインとしながら、オフィス以外で働くこともある勤務形態」という意味になります。たとえば、週に3回はオフィスに顔を見せるが、残りの2回は出勤する必要がないので家で仕事をするなどというのがアメリカにおける典型的なテレワークです。また、毎朝出勤して午前中はオフィスで働くものの、午後からは家で仕事をするといった勤務形態もテレワークとみなされます。
一方、リモートワークはオフィス以外で働くことをメインにしている場合に用いられる言葉です。あるいはオフィスに自分のデスクが存在しないといったケースにもあてはまります。会社からノートパソコンを支給されて「それを使って家で仕事をするように」と言われたとすれば、それはリモートワークだというわけです。このリモートワークという働き方は一般的に、自宅がオフィスから遠く離れており、通勤するのが困難だという場合に用いられています。
ちなみに、リモートワークの中でも会社に一切出勤しない働き方をテレミュートといいます。ただ、1度でも出勤をするとそれはテレミュートではなく、リモートワークです。アメリカでは以上の3つの言葉を用いて時間や場所にとらわれない働き方を定義しているのです。
日本でいまだにテレワークという言葉が使われている理由
オフィス以外で仕事をするといってもその働き方はさまざまです。そのため、海外では働き方に応じた呼称がつけられていますが、日本ではいまだに「テレワーク」という呼び名でひとくくりにされています。テレワークという言葉が使われるようになってから30年以上も経過しているにもかかわらずです。それはなぜかというと、まず、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府といった行政機関や地方自治体などが公的文章やウェブサイトにおいてテレワークという言葉を使い続けているのが大きな要因となっています。つまり、国や自治体がテレワークという言葉を定着させようとしているのです。
また、「テレワーク」を導入した企業に対して、厚生労働省から助成金が出る制度がありますが、その制度にも「テレワーク」と記されています。それに対して、リモートワークという言葉は公的な文章ではほとんど使用されていません。そうなると、企業も自然とテレワークという言葉を使う機会が増えてきます。おまけに、日本ではテレワークもリモートワークも似たような意味で用いられているため、あえて使い分ける必然性も生まれないというわけです。海外と異なり、テレワークという言葉のみが用いられている背景には以上のような理由があるのです。
総務省が定義するテレワーク1.企業に勤務する雇用型
日本では会社以外で働くことをテレワークの一言でまとめてしまいがちですが、もちろん、テレワークにもいくつかの種類があります。実際、総務省はテレワークを雇用型と自営型の2種類に大別しています。まず、雇用型とは企業や団体などに雇用されている従業員が通信機器を使用してオフィス以外の場所で業務を行うことです。さらに、この雇用型は在宅勤務・モバイルワーク、施設利用型勤務の3種類にわけることができます。
この内、最も広く知られているのが「在宅勤務」でしょう。文字通り、自宅で仕事を行うことを意味し、距離的な問題などで通常の出勤が困難な状況下ではしばしばこの方法が採用されることになります。また、雇用する側からすると、通勤の負担を軽減させることで作業の効率化やモチベーションの向上が期待できるのが大きなメリットです。さらに、自宅で介護を行いながら仕事をすることが可能となるため、高齢化問題の打開策としても期待されています。
それに対して、「モバイルワーク」はオフィスや自宅などといった具合に勤務先を固定化するのではなく、いつでもどこでも仕事ができるようにしておくことを指します。たとえば、パソコンや携帯電話を活用して取引先や移動の最中でも仕事をするというのが典型的なモバイルワークです。主に営業・配達・警備といった外回りの職種でこの働き方が採用されているため、「外勤型テレワーク」などとも呼ばれています。その他にも、コワーキングスペースやシェアオフィス、ネット環境のあるカフェなどで仕事をするのもモバイルワークの一種です。
最後の「施設利用型勤務」というのはオフィスの代わりとなる専用施設を利用した働き方です。具体的には、会社が自宅の近くに用意したサテライトオフィスやテレワークセンター、スポットオフィスなどに行き、そこで仕事をすることになります。基本的には在宅勤務と似ていますが、同じ境遇の人間と一緒に働くことになるので孤独感に苛まれるといったことが少ないというメリットがあります。それに、自宅で仕事をする環境を確保するのが難しいという人にとっては専用施設を用意してくれるのはうれしいところです。その代わり、経営者側にとっては施設を用意するのにコストがかかるというデメリットがあります。
総務省が定義するテレワーク2.個人事業者などの自営型
テレワークを行うのは会社の従業員だけとは限りません。フリーランス・在宅ワーカー・ノマドワーカーなどといった、企業が雇用していない人がテレワークを行うケースもあります。そして、そのスタイルを総務省では自営型と定義しているわけです。自営型は主にSOHOと内職の2種類に分かれています。まず、SOHOというのは比較的専業性が高い仕事を行っており、独立自営の度合いが高いものを指します。営業や宣伝活動にも積極的で、取引先にも必要に応じて出向くといったスタイルがSOHOの典型例です。
それに対して、内職は専業性が比較的低く、独立の度合いも低いという特徴があります。仕事はクラウドソーシングなどから探すことが多く、得られる単価はSOHOと比べると低めです。業務内容も専門性の低いものが大半を占め、多くの場合は他の者が代わっても行うことができます。それに加え、ほとんどの仕事は自宅内だけで完結するのが一般的です。ちなみに、このタイプには他に本職を持っており、副業としてテレワークを行っているという人が多数存在します。それだけ仕事のハードルが低いというわけです。
全国ではテレワークのほうがよりキーワード検索されている
実際に、テレワークとリモートワークの使用頻度にはどの程度の差があるのかを明らかにするために、検索エンジンを用いてキーワードごとの検索数を調べてみると、全国規模で幅広く検索した場合にはテレワークのほうがリモートワークよりも3~4倍程度多いという結果が出てきます。また、大手求人サイトに掲載されている求人広告をチェックしてみても使用頻度が圧倒的に多いのはテレワークのほうです。逆に、リモートワークで検索される地域を調べてみると首都圏・大阪・北海道などが多いという結果がでています。
なぜ、このような地域差がうまれるのかについてははっきりとした理由はわかっていません。ただ、仮説の一つとして、職種による使い分けが関係しているという考えがあります。つまり、この3地域にはリモートワークという言葉を積極的に使用する職種が集中しているのではないかというわけです。
職種によってテレワークとリモートワークが使い分けられている
一般的に、リモートワークよりもテレワークの使用頻度が遥かに高いのは事実です。しかし、それはあくまでも全体的な話であり、条件を絞って調べてみると結果は異なってきます。たとえば、大手求人サイトに掲載されている求人記事を調べた場合、営業や人事・事務といった職種ではテレワークという言葉を用いた求人のほうがリモートワークという言葉を用いた求人よりも遥かに多いという結果になっています。ところが、エンジニアやデザイナーといったクリエイティブ系職種に絞って調べてみるとその数が逆転するのです。
つまり、これらの事実はネットに求人募集を掲載する際には言葉の選択にも気を付けたほうが良いということを示しています。なぜなら、営業や人事・事務といった仕事の求人で「リモートワーク」という言葉を使っても一般的な用語ではないため、検索されないおそれがあるからです。もちろん、逆もしかりで、エンジニアやデザイナーなどの求人で「テレワーク」という言葉を使ってもスルーされる可能性が高くなります。つまり、より多くの人材を獲得したい場合は、職種によって適切な言葉を使い分けることも必要だというわけです。
まとめ
アメリカなどとは異なり、日本ではテレワークとリモートワークの実態には大きな差はありません。ただ、企業経営者や人事担当者であれば、リモートワークのほうがより次世代を意識した具体的な働き方を指す言葉であるという事実は理解しておいたほうがよいでしょう。その上で、必要に応じて適切な言葉を使い分けていけば、人材不足解消の一助となるはずです。細かいようですが、そうした小さなところからコツコツと改善を重ね、問題解決に結びつけていきましょう。